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あれから数年経ち、私は講義棟のレジェント幽霊となった。いつもいた海ではなく、大学内をうろうろする幽霊になった。大学内にいる様々な幽霊の事情とは別で、私にはここにいる理由がない幽霊だが、いつまでもいつまでもい続けるようになった。
「ねえ、あなたいつ成仏するのよ」
「さあ、私もわからない。あなたは?」
「私もわからないわ。このままずっといそうな気もする」
「そう・・・」
大学構内で出会う幽霊には定期的に他愛のない話をされるようになった。酒盛りはしないが、私はいつの間にか大学内の幽霊の一因となり、一人でいる時よりは多少暇を持て余すことがなくなったように感じた。
そして、今日は入学式だった。大学内はサークルの勧誘やらで騒々しいため、幽霊は陰で身を潜めてみたり、天井に移動して見下ろしていたりする。私は天井派で、そこから新しい新入生を見つめていた。
「今年も新入生多いわね」
見下ろした先に、どこか見覚えのあるような女子がスーツ姿で歩いている。私はとっさにその女子を身に天井から降り立った。
あの時の子に、そっくりだ。
目の前に立つ女子は、前髪をそろえてストレートヘアの、緊張した顔つきで周りをきょろきょろと見渡している子だった。あの時の子と目立ちがそっくりで、どうしてここにいるのかと驚くほどだった。
そして女子は、私を通り抜けて探していた講義棟に入っていった。
「あの子を、幸せにしてあげなきゃ」
咄嗟に、この言葉が私の口から流れ落ちた。決してあの子がどういう子なのかを知っているわけではない。今日が初対面だったのに、なぜか直感的にそう思ってしまっていた。
この直感は、嘘じゃない。
私は後ろを振り向き、その子に向かって走り出した。
天井から見ていた幽霊仲間は私たちを見下ろしてこう言った。
「また、失敗するって」
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