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あの日から私は二人のことが忘れられなかった。数日考えてみても男が屑であることは間違いないのだ。だが、どうして女性は屑を怒らなかったのだろうか。

 

「私なら、一発かましているなあ」

 

海の理解できない会話にもやっとしたものを感じる。あれから酒が進まず、せっかくお供えしてもらっているお酒も減らない。いつもお供えをしてくれる近所のおじいさんおばあさんが「あれぇ酒が減っとらんじゃないの」と心配してくれる。

 

・・・というか、減っていることにこの人たちは怖さを感じないのだろうか。まあ、私は助かっているからいいけど。

 

そんなことよりも、このモヤモヤ感をどう解消すればよいだろうか。

 

またも腕を組み考えてみる。


「あーっどうすればいいんだろ」

 

頭をかきむしったときに海の波が「ザー」っと音を立てる。そういえばこの波の音も考え事をしてから気にすることもなかったな。こうして私が死んでからここにずっといることも長かったので、波の音も生活の一部となっていたのかな。

 

あ、そうだ。

 

私は立ち上がってみた。

 

疑問に思うなら、とりあえず二人を探してみよう。二人がいる場所に行ってみれば何となくすっきりするかもしれない。

 

そして私はここから離れてみようと決心した。死んでからずっといたこの場所から離れたことがなかったので「消えるかな」「踏み外すかな」なんて思ったものの、元居た場所の堤防から降りてみても大して何も起きなかった。

 

そして、私は走って二人の場所に向かった。



 

あの日、私が二人の何も楽しくない会話を聞き始めて三十分ほどたち、少しだけ飽きて寝そべりながら聞いていた時のこと。

 

「同じ大学でさ、こうして出会えたのもその時の偶然ってやつじゃん?」

「うん、そうだね」

「で、大学の近くに誰も来ない海辺で語るってのも、特別な感じだよね。まるで俺らのために用意されてるって感じ」

「うん」

 

という理解不能な会話を思い出した。この界隈で存在する大学というのは一校しかないこと。そこから二人が出没する可能性を拾い上げた。こういう情報提供だけは、あの屑男に感謝しかない。

 

この行動が私の“何か”につながるという漠然な興味もある。とりあえず二人を探してみて、そこからすっきりしようと私は考えていた。

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