.

「い、石川?」


「石川兎斗。君は昔、とても強かった。」


「石川は、その前世的な話で?」


「ユキ、憶えてない奴に言っても仕方ないだろ。」


「…確かに、慌てさせることもないですけど。」



青い瞳がまるで敵かのように俺を見つめる。



「お前さ、少しも思い出せないのか?」


「…すみません。」


「虎徹さん、仕方ないっていったのは自分じゃないか。」



金髪をくしゃくしゃとかき乱すと、足でダンッと大きな音を鳴らして立ち上がった。



「あーあー。兎を見つけたと思ったらこの有様だぜ。」


「虎徹さん。」


「弱っちぃヘタレのクセに、

何を勿体ぶってんだか。」


「虎徹さん!!」



佐野さんは大人しく口を噤むと、俺にグングンに近づいてきた。



「トビト。

お前は、鬼を倒すために生まれてきた。」


「虎徹さん!」


「十二使伐倒隊、卯ノ隊・隊長石川兎斗。お前はそう呼ばれていた。」



十二使伐倒隊。

初めて聞いたし、懐かしいとも懐古できる響きじゃなかった。


ただ、この高圧的な態度の佐野さんと、優しい佐藤さんのアメとムチのバランス、

これだけは何事にも変え難い泣きそうな気持ちになる。



「思い出してもいないのに知らない知識を入れても仕方ないでしょ。」


「ウジウジするのが面倒なんだよ。」


「すみません、吉田さん。

今日の所はこれでお引き取り頂けますか?」


「…あぁ!ハイハイハイ!!」



俺は待ってましたと言わんばかりに飛ぶように立ち上がる。

佐藤さんは玄関に丁寧に案内する途中言った。



「もしも、思い出したり、

興味があり、協力して下さるようなら、またお迎えに上がります。」


「はぁ…。」



少なくとも、

また会うことは無いだろう。


こんな奇々とした世界

好んで踏みいろうとはしないだろう。



「鬼はいつでも貴方を見ています。気をつけて。」


「いつでもって。」


「とにかく危ないという事です。暗い場所には近寄らないで。本能のままに危ない場所は避けて。」



俺が、協力する気がないと分かっているのだろうか。

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