.

「…さん、何も殴ることはないだろ。」


「しょうがねーだろ。」




ズキン、と頭が痛む。


ゆっくり声が耳に入ってゆっくり目を覚ました。




「あ、まだ安静にして、身体そのままに。」


「…うぅ。」


「ほら、虎徹さんの頭突きは威力が人並みじゃあないんだから。」



頭、グラグラする。


白い天井を見つめ、焦点を合わせる。


意識がハッキリしてきた頃には、時既に遅く、彼に言われるがまま連れられた後だった。



「ここは…」


「ここは彼、虎徹さんの家。」



虎徹さん、と呼ばれた人を見るとこれまた綺麗な顔をした男の人だった。


金髪に、青い瞳。

日本人ではないのだろうか。


虎徹という名がアンバランスに思える。

もっとこう、横文字な名前が似合いそう、例えばアンドレとか。



「見るからに弱っちぃ。まさにトビトって感じ。」


「余計なことは言わなくていい。」



口が悪い。


あんな綺麗な顔から毒づくとは大したギャップ。



「さて、これからいくつか質問するけど、平気かな。」


「…はぁ。」




少し長い黒髪を耳にかけて、

優しい瞳で俺を見た。


虎徹さんとは対象的なのが印象によく残った。



「とりあえず、自己紹介だけしておこうか。

僕は佐藤雪さとう ゆき、よろしく。」



よろしく、は出来るだけしたくはないんだけど……




吉田奏兎よしだ かなとです…よろしく。」



「うん。そっちは佐野 虎徹さの こてつさん。」



金髪の男の人はぷいと顔を背けて、よろしくするつもりはないようだ。



「虎徹さん…。」


「あぁ、大丈夫ですから。」



どちらにせよウェルカムされても仲間内に入る予定は無いし、


さっさと話して退散しよう。




「最近、自分の身体で変わったことは?」


「…いや、これといって。」


「そう…、じゃああんな風に襲われたのは初めて?」


「はい。空気が悪いとは気がついていましたけど。」



あの路地がおかしいと感じるようになったのは、ここ2、3週間。


気配こそ感じなかったものの、何かいるような気がしていた。

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