.

路地を抜けるまでもう少し、


薄暗い路地の終わりが暖かな日差しを受けている。




「うッ…!」




日陰を抜けた。


その瞬間、

俺は後ろを振り返ってしまった。



あの薄暗い路地に、

小さな女の子が立っていたのだ。






「振り返るな!!」


「はいッ!」




しばらく走り続けると、

緩やかにスピードを落とし、

とうとう立ち止まる。




「…は、ぁ。はぁ、はぁ。」


「大丈夫?」



明らか俺よりも歳上で、

ひ弱そうな白い肌の人なのに息切れひとつしていなければ汗すらも流れていない。



「フゥ…あの路地も通行禁止だな。」


「?」




白いワイシャツの袖を捲りあげて、流れるようにサラサラな黒髪をかきあげた。


同じ男の自分でも綺麗だと思った。




「夏なのに走らせて悪かった。

汗かいて気持ち悪いだろ。」



「…は、はぁ。うッ!!!」




無理に走った疲れからなのか、気持ち悪さで思わずえづく。




「大丈夫?可哀想に鬼の呪術に掛かったんだろう。吐いてしまった方が良いよ。」


「うッ、おえッ…。」



背中をさすられて、言われるがままに出かかっていたものを吐き出す。

胃が熱く燃えるように痛く、吐き出すのも辛い。




「ほら、しっかりなさい。中途半端にしては出るものも出ません。」


「…うげッ、うッ…。」




言葉が、ぐちゃぐちゃだ。

この人が2人居るみたい。


優しく、叱るような言葉は何故だか懐かしく思う。



「よし、コレでいい。」



俺が吐き出したものの中に手を突っ込んで何かを引きずりだした。



「それ汚ッ…!」


「これ、呪術だから。燃やしておかないと危ない。」




彼はポケットからライターを取り出すと白い紙を燃やした。


…俺の胃の中から紙?



「君が吐き出したものは全て毒だ。」


「ど、毒。」


「鬼の呪術にかかったからね。でも、これで大丈夫。」



黒髪の綺麗な顔のまま微笑んで、俺に言った。




「君はそんな鬼を倒すために生まれてきたんだよ。」

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