前世
『さぁ坊や、名前を言ってごらん。』
「…あ、あぁ。」
どうして、俺がこんなことに。
『さぁ、言ってごらん愛しい卯ノ子。』
姿は見えないが、ガスのような煙のような何かがまとわりついてくる。
黒々とした、恐ろしい影。
『さぁ…。』
煙がじっくりと身体に入り込んだ。
唇がゆっくり動く。
「…ぅ、ぅぐ。」
『貴様の名を言うてごらん。』
「…よ、よしだ、」
勝手に口が動く。
口に手をやって蹲った。
固く、冷たいコンクリートに額をつけて力の限り唸った。
「うううううぅぅ!!!!!!」
口を動かさないと名前を言ってしまいそうで、ひたすらに声を上げた。
『言え、言え、言え、言え。』
「…ぅぅぅぅッ!!!」
抵抗虚しく名前が胃の内容物ごと引きずり出されそう。
「立って。」
首根っこを掴まれて、蹲った身体を無理やり起こした。
低く、聞き心地の良い声が頭上から降ってきて俺はその言葉に身を任せた。
「息止めて、僕が背中押すから一気に路地抜けるよ。」
「あ、は…い。」
「名前、間違えても言うんじゃないよ。」
背のスラリと高い、黒髪の男の人が俺の背中を押して思い切り走り出した。
俺は口を両手で押さえて彼に身体を任せる。
「うぅッ…。」
「声を出すな。」
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