第二十二話 ポチとポチの家族 3

●第二十二話 ポチとポチの家族 3



「ただいまー」

「あ! 母ちゃんだ!」


 ゾウ太郎くんのお母さんが帰ってきました。


「お邪魔してまーす!」

「あら、お客さんがいるの? ……カミ太くんじゃない! 大きくなったわね!」

「うん!」

「そちらの方は?」


 はじめまして。ポチのことでお話があって伺いました。

 そうして、客間に全員で入ったあと、これまでの事情を説明しました。


「……お話はわかりました」


 ゾウ太郎くんのお母さんは難しいような口ぶりで言いました。


「もともとポチは、二年前に亡くなった私の父、つまり子どもたちから見ると祖父に当たるのだけど、その父が友達から引き取った子どもと言って連れてきたのよ。確かに最初は他所様の子供を引き取るなんて! と思ったけど、ポチは私達によく懐いたし、ゾウ太郎とは兄妹のように仲が良かったの。だからイエイヌの子供がどーだの、全然気にしないようにしたわ」


 ゾウ太郎くんのお母さんは悩んでる表情です。


「ねえポチ」

「何?」

「あなたはどう思うの? 私達より本当に血のつながった家族のほうがいいの?」

「は、そんなわけ無いじゃん」


 ポチは苛ついているような口ぶりです。


「で、でも。本当のお母さんもあなたに会いたいって言ってるじゃない! きっと大切に思っているはず――」

「知らないよ!!」


 ポチは大声で叫びました。


「母ちゃんには俺の気持ちなんて分かんないよ!!」


 そう言って、ポチは家に飛び出していきました。

 全員が驚いて呆然としてる中、ハト丸が部屋を飛び出しました。

 ハト丸?!


「行ってくる!」


 そうして、ハト丸も続いて家からでて羽ばたきました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 道

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 ポチは走って走り続けました。

 母の言葉が頭の中でぐるぐる回っています。

 そして、何も考えるなと言い聞かせて、走ることに集中しました。


「おーい!」

「!」


 突然後ろから話しかけられました。

 声の主はハト丸です。

 空を飛んで追いかけてきたようです。


「んだよ! 帰れよ!」

「じゃあ、なんで逃げるのさ!」

「くそ!」


 ポチは全力で走り、ハト丸はそれを追いかけ続けました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 河原

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ぜえ……ぜえ……はあ」


 ついにカミ太くんはへばり、河原の坂の下で座り込みました。


「はあ、やっと止まってくれた」

「なんで……おま……はあ、息切れしてないんだよ」

「? これぐらいへっちゃらだよ」


 ハト丸のほうが体力があるようです。


「ねえ、そんなにハナちゃんのママに会いたくないの?」

「ああ、会いたくないね」

「なんで?」


 そんなハト丸の純粋な疑問に、はぐらかすように言いました。


「決まってるじゃないか。俺は捨てられたイエイヌなんだろ。会う義理なんかない」

「? 別に捨てられてないと思うよ。事情があってゾウ太郎くん家に引き取ってもらっただけじゃん」

「そういうの、世間一般では捨てたって言うんだよ」

「えー!」


 ハト丸の疑問は拭えませんでした。


「じゃあさ、どうして捨てられたら会いたくないって思ってしまうのさ?」

「……そりゃ……ムカつくからに決まってるじゃないか」

「ポチが赤ちゃんのときの話なのに、なんでムカつけるの?」

「……」


 こいつ、妙に鋭い。

 そう思うポチでした。

 はあ、とため息を吐くとポチは悪びれずに言いました。


「さっきの話は嘘だよ」

「え?」

「捨てられた――てゆうかアフリカゾウの家に預けられたってこと、別に怒ってないよ」

「えーーー! 嘘だったの?!」


 ハト丸は驚愕しました。


「なんで嘘つくのさ!」

「適当にはぐらかして、お前を追い返そうと思ったんだよ。わかったらさっさと帰れ」

「できない!」


 引き下がる気のないハト丸に、ポチはイライラしました。


「このわがままなハトめ! 会いたくないって言ってるだろ!」

「それこそ知ったこっちゃないね! ポチが会ってくれないと、ハナちゃんとハナちゃんのママがずっと悲しんだままなんだ! てゆうか、ポチのほうがわがままじゃん!」

「なんだとお前!」


 先に手を出したのはポチでした。

 ハト丸が着ている服の襟を両腕でつかみ、地面に押し倒しました。


「ひぐっ、痛い!」

「お前に何がわかるんだー!」


 マウントをとったポチがハト丸を殴ろうとした瞬間――


「うわあああん!」

「!」


 泣き出すハト丸を見て、手が止まりました。


――年下相手に何やってるんだ


 そう思い、ポチは冷静さを取り戻し、拳から力を緩めました。

 その瞬間――


「手羽先ビンタぁ!!」

「ぐはぁっ!」


 ハト丸から、全力の反撃をもらう羽目になりました。

 ポチは地面に倒れ込み、涙目で「めっちゃいてぇ」と口に出しました。


◆◆◆


 十数分後、冷静さを取り戻した二人はお互い横並びで座っています。


「あのさ、ハト丸。さっきは殴りかかってごめん……」

「僕はそんなに怒ってないよ!!」

「口調が完全にキレてるんだけど?!」

「だから本当のこと話せよ!!」


 ポチは「はあ」とため息を吐いたあと、ポツポツとハト丸に語りかけるのでした。

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