第二十話 ポチとポチの家族 1

「ゾウ太郎くんからの手紙だよ!」


 カミ太くんは手に持った紙について聞かれ、そう答えました。


――ゾウ太郎くん


 旦那さんはその名前にはかすかに聞き覚えがあります。

 カミ太くんは以前、大好きだった友達が引っ越してしまったせいで一人ぼっちになったことがあり、その寂しさを紛らすためにいじわるノートなんて作って一騒動を起こしてたことがありました。

 引っ越したその友達の名前が、ゾウ太郎くんでした。

 シロさんはゾウ太郎くんの手紙から【あの子】の匂いがしたそうだが……


「教えて下さい。そのゾウ太郎くんって子はイエイヌの子供と暮らしているかわかりますか?」


 シロさんの問に、カミ太くんは、うんとうなずきました。


「手紙に書いてあったよ。引っ越しするときに赤ちゃんの子犬を飼ったって。今は小学生になったばかりで、弟のように可愛がってるって」

「「!」」


 これは当たりなのでは

 そう思ったのも、ハナちゃんと明らかに年齢が近いからです。


「その手紙を見せて頂けますか?」

「うん」


 シロさんはじっくりと手紙の文面を読んでいきます。

 内容の殆どはゾウ太郎くんの身の回りの話だったが、その中にしっかりと犬の話がありました。


「あぁ……!」


 シロさんは泣き崩れました。


「あの子の名前は――」


 知りたくてやまなかった名前、知った瞬間に心の奥底に押し込めつづけた愛おしい気持ちが溢れ出したのだろうか。


「ポチ……あの子の名前はポチ!」



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 数分後

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 シロさんが落着きを取り戻したあと、これからの話をしました。

 ゾウ太郎くんの手紙には、はっきりと住所が書いてあります。

 そこへの道のりは電車で2時間もほどの道のりです。

 そこに向かえばきっと会えるでしょう。


「お母さんはお家で待っててね! 私とハト丸がポチを連れてママと会わせるね!」

「……気をつけてねハナちゃん……ハト丸くん……」


 シロさんはご主人さまの看病のため、そう遠くへ離れることはできません。

 シロさんの言葉に、ハト丸とハナちゃんは「うん!」と力強くうなずくのでした。

 だとすると、他に向かうメンバーは……


「ゾウ太郎くん家に行くの!? お兄ちゃん僕も行く!」


 はいはい、カミ太くんのお父さん、お母さんに許可とってからだね


「お母さんに電話する!」


 スマホをカミ太くんに渡しました。

 数分電話したあと、「電話変わってだって」とスマホを旦那さんの手に返しました。

 カミ太くんのお母さんに、事情を説明したあと許可を頂きました。

 さて、あとは……


「私は残りますので、あなたが子どもたちを連れて行ってください」


 リョコウバトさんが残るなんて意外、と返しました。

 それに対してリョコウバトさんはボソっとした声で耳打ちしました。


「まあ、あなた。これでも私、妊婦ですのよ」


 ……すまん。配慮不足だった


「シロさん、私はリハビリやマッサージには心得がありますわ!」

「そうなんですか!?」

「それ以外にもお手伝いできることは私に申し付けてください! できる限りお手伝いしますわ!」

「ええと……」


 シロさんはなんだかソワソワしています。


「シロさんは大事なママ友ですわ! こういうときくらい頼ってくださいな」

「……じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます!」


 ゾウ太郎くんとポチの家に向かう準備が整いました。


「ママ! いってきます!」

「お母さん! いってきます!」


 ハト丸、ハナちゃん、カミ太くん、私の四人で向かうのでした。



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 ゾウ太郎くんの家

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 たどり着いた先は一軒家でした。

 カミ太くんはクンカクンカと鼻をひくつかせると、


「ゾウ太郎くんの匂いだ」


 といいました。

 この家で間違えなさそうです。

 チャイムを鳴らそうとしたとき、家の中からドタドタと足音が響きました。

 そして、ガチャンと勢いよく玄関のドアが開きました。


「カミ太くん!!」


 出てきたのは一匹の元気そうなアフリカゾウでした。


「パオーン!! カミ太くんひっさしぶりだね!」


 どうやら彼がゾウ太郎くんのようです。

 カミ太くんとゾウ太郎くんできゃきゃと喜んでいます。


「手紙を見て来てくれたんだね! うれしい!」

「またパオパオやってよ!」


 ぱ、パオパオ?


「おっけー! わかった」


 ゾウ太郎くんは首に巻いてある長いマフラーをニョロニョロと蛇のように動かしました。

 そして、そのマフラーでカミ太くんの体を巻きつけると、高く持ち上げました。

 すごい力持ちです。


「わー!! キャー!!」


 カミ太くんはとても楽しそうに声を上げてます。


「いいなぁー! 僕もやらせて!」

「私もパオパオしたい!」

「パオーン! そういえば君たちは?」


 ゾウ太郎くんの疑問に、カミ太くんが答えました。


「みんな僕の友達だよ。ハト丸とハナちゃんと――変なお兄ちゃん」


 ……私だけ不審者扱い?!


「え!? へんたいなお兄ちゃん?」


 へ、へんたいじゃないよ!

 変と変態は同じ意味じゃないよ!


「そういえばハト丸のお父さん……。ごまちゃんと話したとき、とっても変な人っぽかったです……」


 ハナちゃん……追撃やめて……。

 もうすでに自分のHPはすでに0――


「パパ……もう変なこと禁止!」


 ぐはっ!

 息子の言葉に止めを刺されました。

 旦那さんはぐったり倒れ込みました。


「うわ、本当に変態っぽい!」


 ほら、ゾウ太郎くんもそう信じ込んだじゃん……。


 倒れ込んだ状態の旦那さんにハト丸は近づき、みんなに聞こえないようにコソコソ言いました。


「ねえパパ……」


 お、慰めてくれるのかな?


「アイフォン買ってくれたら許してあげる」


 ……息子の天使の笑顔がちょっぴり憎たらしい! と思う旦那でした。



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