第十八話 ハト丸とハナちゃんの旅 後編 1

●第十八話 ハト丸とハナちゃんの旅 後編 1



「とても心配ですわ」


 リョコウバトさん、ハト丸、そして私がそれぞれテーブルについていました。

 家族会議です。

 シロさんの件?


「もちろんですわ」


 だよねぇ……

 なにか事情を抱え込んでそうだよね


「ええ。ハト丸ちゃんはなにか知りませんか?」

「うーんとね……。あ、そういえばハナちゃんがね――


――ご主人さまもお母さんも、最近は散歩しないの


 って言ってたよ」


 リョコウバトさんと旦那さんは目を合わせました。


「それが話の核心に違いありませんわ」


 間違いなくなにかあるね。

 リョコウバトさんはご主人さまにあったことあるの?


「いいえ、ございませんわ。

 シロさんがおっしゃるには、『厳しいけど強くて優しい、素敵なご主人さま』だそうですわ」


 なんだかすごそうな人だね


「ええ、その上、『散歩の時間は、一回二時間の朝昼晩三セット、それを毎日』だそうですわ」


 散歩長すぎない?!


「それももううっとりした表情で! 『私の散歩に最後まで付き合ってくださるヒトはご主人さまだけ……!』とも言ってましたわ」


 シロさん……どんだけ散歩が好きなんだ……

 でもそれだと……


「そのシロさんとご主人さまが、最近散歩しないのはやはり事情があるということですわ」


 話が戻ってしまった。

 するとハト丸が口をひらきました。


「あったことあるよ」


 本当かいハト丸。どんなヒトだった?

 ハト丸は元気に答えました。


「おじいちゃんだった!」


 となると……


「ご病気とかでしょうか……」


 ……そうかもね

 とはいえ、シロさんから話を聞かないことには確実なことはわからないけど……聞きづらいなあ


「ではあなた、私に考えがありますわ」


 どんな?


「知り合いの占い師さんに相談してみましょう」



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 アメリカレアの占い部屋

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「いらっしゃいませー。あらリョコウバトさん」


 3階建ての建物の小さな一室に占い部屋と書いてあり、そのドアから出てきたのはきれいで清楚そうな見た目の女性でした。


「こんにちはですわレイアさん、ご機嫌いかがですか?」

「ええとっても! そちらの方はもしかして?」

「ええ、私の旦那様ですわ」


 そして、レイアさんは私を見て自己紹介しました。


「はじめまして。私はアメリカレアのレイアです。占い師をしています」


 占いと聞いたときは、もっと胡散臭く、怪しげな人がやっているのかと思いきや、それとはまるきり正反対の親しみやすそうな女性でした。


「こう見えてレイアさんはとてもすごい方ですわ」


 そうリョコウバトさんは旦那さんに力説しています。


「いえいえ、私なんてまだまだ未熟者ですよ」


 そう言って謙遜するレイアさん。

 そんなに高名な占い師なのだろうか? と旦那さんは思いました。

 そんな疑問にリョコウバトさんは答えました。


「あらゆる分野で活躍された方ですわ。

 ご自身が立ち上げた会社は一代で世界企業として名をはせていますわ」


 え! 社長ってこと?!


「それとは別に、アメリカの軍人だった頃は一個師団の大隊長、退役後も教官として新兵をあらゆる分野でのエキスパートまで叩き上げたそうですわ」


 ぐ、軍人って……


「もうリョコウバトさん! 全部過去の話ですよ」


 あれ……否定しないんだね……

 リョコウバトさんはふふっと笑い、レイアさんはおほん、と咳払いしました。


「リョコウバトさんの話に付け加えますと、世界最高峰の占い師、ダチョウ姉さんに弟子入りして、占いのみではなく、風水、降霊、除霊、精霊の声の聞き方、呪術など、皆様の悩みや苦しみを癒やす、あらゆる方法を学んできました」


 正直、色々やりすぎて何やってる人かわからない……!


「それ、よく言われます!」


 自覚はあるようでした。


「ですので、占い以外にも、降霊や除霊、あと誰かを呪いたいときなども気軽に相談くださいね!」


 うん……。その時はそうするね……。


「そして、会員登録してくださった方にはこの、悪い夢を掴み良い夢だけを見られる魔除けアイテム、ドリームキャッチャーを特別価格で提供しています!……どうですか!?」


 流石に胡散臭さすぎですよ!


 そんなこんなで、シロさんの話を打ち明けて、占ってもらいました。


「……リョコウバトさん、そして旦那さん」


 レイアさんは真剣な眼差しでいいました。


「この件、時がくるまでは何もしないでください」


 ……立ち入らないようにするってことですか?


「はい」


 レイアさんはリョコウバトさんに向かって尋ねました。


「リョコウバトさん、未知というものを恐ろしいと感じますか?」

「……いいえ、とっても素晴らしいものだと思います。知らないからこそ、それを体験した時、心の底から喜びを感じますわ」


 リョコウバトさんの言葉に旦那さんも同調しました。

 では、とレイアさんは続けて尋ねました。


「逆に、既知――つまり過去を恐ろしいと感じますか?」

「……ええ、そう思ってしまうときもありますわ」


 リョコウバトさんの過去、察して余りあるものでした。


「既知を過去とするならば、未知とは今現在すべてのことを指します。シロさんは知ってしまった恐怖にとらわれて、現在のこと、そしてこれからのことに向き合えきれないでいます。そしてそれを取り除くには――」


 レイアさんはビシっと言いました。


「時が来るまで待つのです!」


 ……あのー、時っていつ来るのですか?


「その時が来たらわかります。というか、リョコウバトさんが動くとこの件、一日でケリが付いてしまいます。それではあまり意味はないのです」


 なんだか聞き捨てならないような言葉が出たような……。


「はい、お代は三千円です」


 そんなこんなでモヤモヤしたまま、占い部屋を去るのでした。


「まあ、信じて待ってみますわ」


 そう言って、リョコウバトさんは少し気の抜けた表情で笑うのでした。



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 ハナちゃんの家

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「だれじゃいおまえさんは?」

「わん。シロですよー、ご主人さまの愛犬ですよー」

「……ああ………。だれじゃいおまえさんは?」


 ご主人さまが認知症になってから何度もこの会話を繰り返しました。

 最初は忘れられてショックだったものの、ご主人さまへの感謝と思いを胸にと、何度も奮い立たせてなんとか介護を続けてきました。

 しかし、そのせいでハナちゃんの寂しい気持ちに気づくことができず……いいえ、正確には気づいてたものの、ご主人さまのために我慢してほしいと勝手に願い、ハナちゃんの寂しさ、苦しさから目を背けていたのです。

 ハナちゃんが夜遅くまで帰ってこなかった時、私はとても怖くなりました。

 きっと私を見捨てて家を出てしまったのだと思いました。

 だから、リョコウバトさんの息子、ハト丸の旅についていっただけと知り、心のそこから安堵したのでした。


「……お母さん、なにか手伝おうか?」


 ハナちゃんが恐る恐る聞いてきました。

 これまでなら、ハナちゃんはまだ小さいから、と今まで簡単なお片付けしかさせてきませんでした。

 これから先は違います。

 ハナちゃんはハト丸に付いていって旅することになるのだから、お料理を身に着けて行く必要があるでしょう。


「それじゃあ、お母さんといっしょにお料理しましょうか」

「うん! やる!」


 そうしてハナちゃんに料理のイロハを教えました。

 初めてでなれない料理だったものの、ハナちゃんは母のやり方を一生懸命真似しています。


「そうそう、包丁は――」


「ああああーーーー」


 ご主人さまの声が聞こえました。

 それと同時に鼻につんと来る匂いも来ました。

 ご主人さまがお漏らししたのでしょう。


「ハナちゃんは待っててください」

「……うん」


 そう言って、シロさんはご主人さまのもとに向かい、掃除を始めるのでした。



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 夜

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 ご主人さまが床につきました。

 私も今日することを終えて、寝室にはいります。

 布団には、母を待っていたのか、ハナちゃんが起きていました。

 心配そうな表情でした。


「ご主人さま、早く良くなるといいね」

「……ええ、そうね」


 子の優しさに、心打たれました。


「ねえ、ご主人さまが良くなったら、お母さんは寂しくなくなるの?」

「寂しい、ですか?」

「だってそんな感じだもん」


 この子は私のことを良く見ていました。

 ……もしご主人さまが良くなっても、この寂しさはなくなるのでしょうか?

 自分に問いかけると、あの子を思い浮かんできます。

 ずっと、ハナちゃんには言えなかった話がありました。

 ……言うなら、いま以外ないでしょう。


「ハナちゃん。大事な話があります」

「うん」


「――あなたには、生き別れの兄弟がいます」


 ハナちゃんに、自分の過去を語りました。



●続く!



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