第十七話 ハト丸とハナちゃんの旅 中編
●第十七話 ハト丸とハナちゃんの旅 中編
トゥルルル…トゥルルル…
電話から着信音がなっています。
そしてリョコウバトさんが受話器を取りました。
「はい、リョコウバトですわ。あら、シロさん! え……?」
リョコウバトさんは徐々に表情が変わっていきます。
「わかりました。すぐに探してみますわ」
リョコウバトさんは電話を切り、私に言いました。
「あなた、ハナちゃんがまだお家に帰られてないそうです」
こんな時間にまだ……? あ……!
すぐに思い当たりました。
「ハト丸の旅立ちの件、撤回しますわ。あなた、ハト丸の行き先を教えて下さい」
わかった!
そうして、行き先を伝えたあと、リョコウバトさんはすぐに飛び立ち、夜空の向こう側へ飛んでいきました。
旦那さんはリョコウバトさんが見えなくなったあと、ハナちゃんの無事を待っているであろうシロさんのもとへ向かうのでした。
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山の中
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「わおーん!」
ハナちゃんは遠吠えしました。
「なんでわおーんって吠えたの?」
ハト丸は尋ねました。
「なんとなくです。でもお外だから声が遠くまで響いて気持ちいいよ」
そうなんだ、とハト丸は納得した時……
――ワオーン
すると遠いどこかから遠吠えが帰ってきました。
暗闇で全く見えませんがどこかのイヌの声のようです。
「あ、返事が来ました!」
「近くにイヌがいるんだね」
「はい! 返事を返してあげましょう」
「わおーん」
――ワオーン
「わおーん」
――ワオーン
「ねえ、僕もやっていい?!」
「いいですよ!」
ハト丸とハナちゃんは大声で鳴きました。
「わおーん!」
「キュルッぽ―!」
――ワオーン
「わおーん!」
「キュルッぽ―!」
――ワオーン
――パオーン
二人はあれ?と首をかしげました。
「イヌじゃない声が聞こえたね」
「どうなんでしょうね」
しばらくしたあと、返事も聞こえなくなりました。
そして、二人ともとても疲れていたので寝ることにしました。
「おやすみなさいです。ハト丸」
「おやすみー」
星空がとてもきれいだった。
瞳を閉じると、山の風はとても澄んでいて、心地よかった。
すぐに二人はまどろみ、そして眠りにつきました。
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ポチ視点
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「ポチ! ポチ! すごい声だね!!」
少しだけ我に返った。
なんだか久しぶりに吠えた気がする。
近所迷惑だってことすら忘れてた。
「なんとなくそういう気分かな」
どうしてだかそんな気分だった。
ちっちゃい頃はそういうことばかりしてきたけど、今となっては不思議と落ち着いていたのに……。
「僕もやりたい!」
ワクワクした様子で兄ちゃんは僕に尋ねた。
ぼくはこくりとうなずいた。
「いまだ、って言ったら返すよ」
「うん! わかった!」
――わおーん
――キュルッぽ―
相手の声がきた。
「いまだ」
僕と兄ちゃんは大きく息を吸い込んだ。
「ワオーン!!」
「パおぉ―ーーーん!!!!!」
兄ちゃんの声はもはや爆音だった。
なんじゃなんじゃと、隣の住宅の明かりが次々とつき始めました。
やば、と思った瞬間、どしどしと廊下が踏み鳴らされる音が聞こえてきた。
「何やってんの!! お前達!! 夜中に近所迷惑よ!!!」
母ちゃんの説教が始まった。
「それじゃ、すぐに寝なさい」
「ごめんね~。わかった」
「うん。ごめんなさい」
母ちゃんは僕たちの反省の弁を聞くと、おやすみなさいといって、部屋から出てった。
ちなみに説教は十秒ぐらいで終わった。
ぼくは寝ようと布団に入ったが、兄ちゃんはそうせず、机に座り込んでいた。
「寝ないの?」
「ポチの鳴き声聞いたらさ、僕の友達を思い出したんだ」
「友達?」
「うん! だから手紙をだすんだ!」
そう言って、便せんの代わりに、ノートを1ページ破って、なぐり書きで文章を書いていきました。
兄ちゃんが寝るまでは電気がついたままなので眠れません。
だからぼくは何気なしに、窓から星空を眺めた。
あ、満月――
ぼくの変な気分は、月に当てられたからかな?
そんなことをぼんやり考えていました。
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空
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ハト丸とハナちゃんは気がつくと、上空にいました。
「えぇ!?」
「なんで!?」
自分たちはリョコウバトさんの両脇に持ち上げられていることに気づきました。
「おはようございますわ」
「あ、ハト丸のお母さん。おはようございます」
「なんで来てるの?!」
「二人を……というより、ハナちゃんを連れて帰りに来たのですわ」
「「えー!」」
二人共抗議の声を上げました。
「わがまま言わない。シロさんとっても心配されてましたわ」
「お母さんが?」
ハナちゃんはなんだか腑に落ちないような様子でした。
「さ、もうすぐ着きますわ」
そう言って、リョコウバトさんはゆっくりと降下していくのでした。
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ハナちゃんの家の前
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リョコウバトの旦那さんとシロさんは空から降りてくるリョコウバトさんと両脇に抱えられた子供たちの姿を見て急いで駆け寄るのでした。
「ハナちゃん!」
「わっ」
シロさんはハナちゃんを抱きしめるのでした。
「無事で良かったです! とっても心配だったのよぉ……」
今にも泣きそうな声でシロさんはハナちゃんに言いました。
「ごめんなさい。お母さん……でもね」
――二人でとことん行こう! どこまでも!
ハナちゃんの気持ちは変わることはありません。
「私はハト丸と一緒に行きたいの。ねぇ、いいでしょお母さん」
「……」
リョコウバトさんと旦那さんは、子供がおねだりする時に発する天使の声に、なんとも言えない苦々しさを感じました。
ハナちゃんが行ってしまったら、残される母親――シロさんの寂しさを考えると不憫でなりません。
ハナちゃ――
「いいですよ」
え?
旦那さんがハナちゃんを諭そうとした瞬間、シロさんはOKを出したのです。
わぁ……!と喜ぶハナちゃんに、でも、と続けて語りかけました。
「少しだけ待ってください。……一年、いや一ヶ月でいいので心の準備をさせて……ハナちゃんをしっかりと送り出したいの」
「……うん! わかった! ありがとうお母さん!!」
ハナちゃんはぴょんぴょんはねながら喜んでいます。
「これで一緒に旅ができるね! ハト丸!」
「う……うん……」
このやり取りを聞いてたハト丸は困惑ぎみに返事しました。
「シロさん……あなたはなぜハナちゃんを止めないのですか……?」
リョコウバトさんはシロさんに尋ねました。
当然の疑問でした。
リョコウバトさんと旦那さんは、ハナちゃんが居なくなって取り乱すシロさんを見て、そして今も苦しそうにしてる表情を見て、なぜ送り出せるのかがわかりませんでした。
少し間を開けたあと、シロさんは答えました。
「ハナちゃんが正しいからです」
え……?
「そして間違っているのは私です」
シロさんは苦しみを受け入れたような……もしくは諦めたような笑顔でいいました。
「心を結んだ相手と、ともに歩む。それが私達イエイヌです。ハナちゃんはその相手を見つけたようです。それを引き止めてしまったのは――」
シロさんはぐっと言葉の続きを飲み込みました。
「いいえ、何でもありません。ハナちゃんを見つけてくださり、本当にありがとうございます」
いいえ、とんでもない! ハト丸にはキツく言い聞かせます
そんな話のやり取りを少しだけしたあと、この場を解散することにしました。
子供たち以外は徹夜明けで疲れ切っていました。
二人共歩ける?
「うん! 大丈夫!」
「私は……あなたにおんぶしてほしいですわ!」
はいはい。リョコウバトさん
リョコウバトさんをおんぶしました。
「ママずるーい!」
ハト丸は歩いてほしいな!
……そんなことよりハト丸
「なぁに?」
お前も隅に置けないなぁ
「ええー? どういうことパパ?」
そんなやり取りをしながらもずっと疑問だけが頭をよぎります。
シロさんの言葉の続きが何だったのか、と
●つづく!
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