第十三話 ハト丸、空を飛ぶ 後編
●第十三話 ハト丸、空を飛ぶ 後編
ハト丸と二人で公園に行きました。
例の鳥の子、ゴマちゃんと呼ばれてた子を探すためです。
公園に入ると、すぐに見つかりました。
ベンチに、ハナちゃんとゴマちゃんが座っていました。
「きゅる……」
ハト丸は、ハナちゃんと喧嘩して、まだ仲直りできてないので、顔を合わせたくなさそうな様子でした。
そんなハト丸の頭をなでて励ましていると……
「あ……!」
ハナちゃんのほうがこちらに気づいて、とことこ走ってきました。
私たちの正面にきました。
そして、ハナちゃんは何か言葉をつなごうと、しどろもどろしてます。
「あの……その! ごめんなさい!」
「きゅる……?!」
なんと、ハナちゃんから謝り、頭を下げています。
それを見た私は、
ほらハト丸、君も……、と促しました。
「きゅる。きゅる!」
「いいですよ。もうそんなにおこってないです」
二人は仲直りすることができました。
でもなんでハナちゃん、ハト丸を許す気になったんだろ?
「よう、お前がハト丸か?」
横から話しかけてきたのは、ゴマちゃんです。
「飛ぶ練習をずっとやってたんだってな。ハナちゃんから聞いたぜ」
「はい。このまえ、リョコウバトさんとハト丸がれんしゅうしてるところをみました。
ハト丸すごいがんばってたね」
そうだったのか。
頑張っているやつを見ると応援したくなるもんな。
親ばかかもしれないけど、お前すごいやつなんだぜ
「きゅるー」
どうやら照れてる様子のハト丸でした。
あ、そうだ。ゴマちゃん
君に飛び方のコツとか教えてもらいたいんだ。
「へ? おいら?」
これまでの事情を説明しました。
「別においら、走るのが得意な鳥ってだけで、ハーフでもなんでもないからな」
ありゃ、見当違いだったか
彼女はG・ロードランナーという鳥だそうです。
「でもまあ、まったく飛べないわけじゃないからなぁ
教えてやってもいいぜぇ」
おお!ありが――
「ただし、ひとつ条件を聞いてもらわないと駄目だぜ」
私の言葉を遮り、真剣なまなざしで私たちを見つめました。
条件とは……?
「おいらのことを――」
緊張から、ゴクリとのどが鳴りました。
「お師匠様と呼ぶことだぜ!」
……かわいい
「きゅきゅきゅうきゅる」
ハト丸はゴマちゃんをお師匠様と呼んでるようです。
「よし! お前は弟子決定な!
……おい、あんたはどうすんだよ」
ゴマちゃんは私に言っているようです。
迷う余地なんてあるだろうか、いやそんなのはない。
……私を弟子にしてください! お師匠様!!
「ふふふ、よーしおいらの言うことは絶対聞くんだぞ!」
「きゅる!」
はい!と大きく返事をしました。
こうして、私は幼女の弟子になりました。
「うわぁ……ハト丸のおとうさん、へんなひとみたいです」
ハナちゃん、その言葉はよしてくれ……!
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修業が始まりました
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「いいか、早く走るためには体を柔らかくしねーとな」
柔軟から始まりました。
私とハト丸、ハナちゃんで、おしりを地面につけて足を開いています。
「ハト丸とハナちゃんはやわらけーじゃねーか」
二人とも足が大きく広がっていました。
ハナちゃんに至ってはほぼまっすぐに足を広げて、体ごと地面にくっつけています。
「ありがとうです」
「きゅる」
二人とも喜んでます。
「弟子二号はまだまだだな」
長年のデスクワークで体が硬くなってしまってる!
思った以上に運動不足のようです。
「へ……言っとくけど、おいらは背中とか押さねーからな。嫁さんにたのめよー」
やばい、女の子たちにもてあそばれてる感がある……!
こんなことがリョコウバトさんにばれたらどうなるだろうか?
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妄想
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『まあ、あなた。かわいらしい女の子から大人気ですわね』
!ああ、そうだね。
子供たちの相手は楽しいからね!
『そうですわね。あなた、すごく楽しそうですものね』
うんうん、お師匠様もハナちゃんもいい子たちだからね。
『あなたが実はMなこと、私は知っていますよ』
!?
『内心あんな風に構われて、興奮してるのではなくて?』
ご、ごめんなさい!!
正直、楽しんでいます
『ふふふ、正直ですわね』
これ以上は勘弁して、許してください
『……だ・め。でございますわ
バトビーム!』
うぎゃああああ!
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妄想 終
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私は考えることを止めました。
早く走るためのトレーニングを頑張ろう!
……あれ? 飛ぶ練習じゃ無くね?
「じゃあ次は鬼ごっこで練習な!」
「きゅるる!」
「ハト丸はわたしたちよりおそいので、はんでをつけましょう」
「じゃあ、おいらたちは片足ジャンプで移動な」
「わん!」
「きゅる!」
まあいいか
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数日後
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ハト丸の様子が一味違う……
骨格は以前とそんなに変わりませんが、その周りについている肉が、一回りも大きくなっています。
リョコウバトさんも、その変化をみて驚いています。
「ハト丸ちゃん、少し持ち上げますわね」
「きゅる?」
リョコウバトさんはハト丸を抱きかかえました。
「やはり体重が3キロほど重くなってますわね」
わかるんかい
「すごく筋肉がついていますわ!」
お師匠様からの修行の成果が肉体に現れたようです。
「私の教え方での問題は、翼だけで飛ぶように練習させたこと……。
五体の鍛錬がおろそかになってましたわ」
とすると、走るための練習、つまり足腰や手足のトレーニングが重要だったてことだね。
「今日の練習、私もついていきますわ」
そうして、家族総出で練習場所に向かいました。
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公園
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「いい感じに体つきがよくなったじゃねーか」
お師匠様はハト丸をみて言いました。
「じゃあ最後に飛び方を教えるぜ」
最初は助走をつけて、トップスピードの手前ぐらいで、翼と手を羽ばたかせてジャンプする。
そうやって飛ぶそうです。
「まずは手本な」
お師匠様はまっすぐ走りだしました。
その勢いはまさしく
そして翼と手を大きく広げました。
体は宙に浮かび、二メートルほどの高さを飛びあがっています!
「きゅる!」
「美しいですわ……」
彼女の飛び方はものすごくきれいでした。
飛ぶことが苦手と言っており、それが滑空というほどの高さだったとしても……!
ハト丸はそれをみて興奮し、リョコウバトさんはうっとりしています。
「どうだ? わかったか?」
飛び終わったお師匠様は、ハト丸に言いました。
「きゅるる!」
やる気満々のようです。
ハト丸はスタート地点に立ちました。
そこから走り出しました。
少し前からでは考えられないほど、力づよく走っています。
そして、翼を広げて、手を広げて――
「まあ!!」
ハト丸は空を飛びました。
私たちの想像を超えて高く、高く飛ぶのでした。
ハト丸は必死に手と羽を動かしています。
そうしなければ落ちてしまうからです。
しかし、それをうっかり忘れてしまうぐらい、今見てる景色はとても開放的でした。
うれしくて、うれしくて、涙すら出てきそうな気分でした。
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少し時間が経ちました
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空からハト丸が下りてきました。
こちらにとことこ走ってきます。
「きゅるーー!!」
「すごいですわ! ハト丸ちゃん!」
リョコウバトさんに抱き着きました。
「わふぅ、ハト丸よかったね」
すごかったよハト丸!
そうして、みんな喜んでいます。
「……」
そんな中、お師匠様だけはなぜか黙ったままでした。
ハト丸は、リョコウバトさんから離れて、お師匠様に向かって言いました。
「きゅるる!」
「……なんでおいらより高く飛べるんだよ」
それは、お師匠様――ゴマちゃんの口から出てきました。
「……ふん。お前はもう弟子じゃない。おいらより飛ぶの上手いじゃん」
そうして、ゴマちゃんは私たちのもとから走り去ろうとしました。
まってと、私が言おうとした瞬間――
「ぉ……おししょーしゃまー!!」
その言葉を発したのは、ハト丸でした。
ゴマちゃんもその声に驚き、こちらを振り向きました。
「お、お師匠様っていうのは……もうやめろって!」
「ありがとーー!!」
それはハト丸の本心のすべてでした。
それを聞いたゴマちゃんは硬直しました。
「……」
そんなゴマちゃんのもとへ、リョコウバトさんが近づきました。
「ありがとうございます。
あの子に飛び方を教えてくださいまして、家族全員あなたに感謝しておりますわ」
「……え」
「お礼と言っては何ですが、空の景色を見せて差し上げますわ」
そういって、リョコウバトさんはゴマちゃんを抱きかかえ、空を飛ぶのでした。
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空
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「……飛ぶのなんてきらいだ」
ゴマちゃんはリョコウバトさんに自分のことを話しました。
「疲れるばっかでさ。こんな風に飛べないし、こんなんじゃ走るほうがましだっての」
「そうですか」
ゴマちゃんは愚痴が止まりません。
「ハト丸は才能があったんだな、ちぇ。
おいらと同じぐらいしか飛べないと思ってたのに、勝手に抜き去りやがって!
お師匠様のほうが偉いのにむかつくぜ」
今のリョコウバトさんには、彼女の気持ちが心の底からわかります。
楽しくなければ、空を飛ぶことはできないのだから――
「ハト丸ちゃんも、私も、旦那も、あなたのこと尊敬してますわよ」
「ふぇ?」
「ハト丸ちゃんがあなたと練習した時間、あの子にとって宝物だとおもいますわ。
それはあなたにとっても、そうではないでしょうか?」
「……うん」
ゴマちゃんは小さくうなずきました。
「この景色、どう思いますか?」
その問いに、ゴマちゃんは自分のもやもやする気持ちから、初めて空にいる感触に意識を向けました。
「……すっげーきれい」
という言葉が出てきました。
●第十三話 ハト丸、空を飛ぶ 完
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