第十二話 ハト丸、空を飛ぶ 前編

●第十二話 ハト丸、空を飛ぶ 前編



 ハナちゃんに謝るため、ハト丸と公園に行きました。

 今度こそ、ちゃんと謝るんだよ


「きゅる」


 そうして、ハナちゃんを探すと……


「あの木にタッチしたほうの勝ちな」

「わん わん!」


 ハナちゃんのはしゃぎ声が聞こえてきました。

 どうやら、ハナちゃんは鳥の友達と遊んでいるようでした。

 かけっこのようです。


「よーい……」

「わん!」


 二人は駆け出しました。

 ハナちゃんは四足歩行で、そして友達のほうは二本足で走っています。

 ハナちゃんもすごい速さで走っているのに対して、友達は更にその上をいく速さで駆け出していました。


「おいらの勝ちー!」


 友達は木にタッチして、大声で勝ち誇りました。


「まけましたー」


 そうして、ハナちゃんは和気あいあいと話しています。

 そして、意を決したハト丸はハナちゃんに呼びかけました。


「きゅるー!」


 ハナちゃんとその友達は、こちらに気づきました。

 ハナちゃんは、じーとハト丸を見たまま、反応してくれません。


「おい、なんかハナちゃん呼んでない?」

「ふん。しらないこですよ」

「きゅる!?」


 おう……すごい怒ってる……

 待ってハナちゃん! 前のことで謝りに来たんだ!


「きゅる! きゅる!」

「だめです! ゆるしません。

 いこ、ごまちゃん」

「お、おう」



 そうして、ハナちゃんは友達のごまちゃんと一緒にどこかへ行きました。

 ……ハナちゃん、厳しいなぁ


「……」


 ハト丸はショックで、真っ白に燃え尽きていました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

 数日後

~~~~~~~~~~~~~~~~


 仲直りはできなかったものの、ハト丸はいつもの調子を取り戻していました。

 そんなある日の晩、食卓を囲む前に、リョコウバトさんがハト丸にいいました。


「ハト丸ちゃん」

「きゅる」

「明日から、お母さんと一緒に飛ぶ練習をしましょう」


 ついに飛ぶ練習が始まるのか……!


「きゅる!」


 ハト丸もやる気まんまんです。


「というわけで明日の練習に備えて――」


 リョコウバトさんは、大皿を机に並べました。

 こ、これは!


「どんぐりの大皿盛りですわ!」

「きゅっきゅるる!」


 ハト丸は大喜びです!

 息子の笑顔に心癒されます。


「さあ、あなたも遠慮せずにどんどん召し上がってください!」


 はーい

 もはやどんぐりを躊躇なく食べられる私は果たして現代人と呼べるのだろうか……

 とかいう、哲学的な思考が頭をよぎったものの、すぐにそんなことを忘れて、ポリポリとどんぐりをかじるのでした。



~~~~~~~~~~~~~~~~

 二週間後

~~~~~~~~~~~~~~~~



 ハト丸はまだ飛ぶことができません。


「キュル!」


 もう嫌だ! 練習キライ! という様子で私にすねて抗議しに来ました。

 よしよし、今日と明日は休んで、ゆっくりしよう


「きゅる」


 そうして、ゲーム機に飛びついて、遊び始めました。

 さて……

 私はチラリとリョコウバトさんを見ました。

 だいぶ落ち込んでいるようでした。


「おかしいですわ……普通だったらもう飛べても……」


 練習を始めてから、今に至るまで、きっちり練習を積んできました。

 羽をばたつかせているハト丸に、私もリョコウバトさんも応援していたのですが、結局飛ぶことができませんでした。

 成長の早い遅いは誰でもあると思うよ


「そうですけど……私達リョコウバトは、どんなに成長が遅かった子でも、一週間すれば飛ぶことができました。

 ……あの子には飛ぶ力がないのでしょうか」


 その言葉に、私はすぐには返答できませんでした。

 ハト丸はヒトとリョコウバトのハーフ、それが原因で飛ぶ力を失ってしまったとしたら、辻褄が合ってしまうからです。


「……わかりましたわ」


 リョコウバトさんは意を決した様子で言いました。


「練習をもう少し厳しくしますわ」


 そ……それはどういう?


「我が子のために心を鬼にしますわ。

 ……例えばそう、羽におもりを付けてみたり、地面からではなく、少し高いところから飛ばせてみますわ」


 お……おう……


「それでもだめなら、もっと高い木の上から――」


 ストッープ! エスカレートしすぎ!

 びくりとリョコウバトさんは体を震わせました。


「す、すみません……私、変なことを……」


 リョコウバトさんは申し訳ない様子で謝りました。

 いいや、ハト丸のことで取り乱すのは仕方ないよ


「あなた……」


――授かりし子は全身全霊で可愛がりなさい


 俺たちの結婚の約束じゃないか

 厳しくするのも、愛情だよ

 ハト丸のことを考えたら、厳しさは必要さ

 前のハナちゃんの時なんてそうじゃないか

 けど、飛べないのはハト丸が悪いわけじゃない

 ハト丸は頑張ってたじゃないか!


「そんなこと、わかってますわ。けど――」


 家族と飛ぶことが夢だったリョコウバトさんにとって、子供が飛べないことがどれだけ辛いことなのか、察してあまりあります。

 だからこそ――


 空を飛ぶのは楽しいって、リョコウバトさんは言ってたじゃないか


 その言葉にリョコウバトさんは、はっと気づいたようです


「怖かったら、空を飛べない……なんて当たり前のことを私は忘れていたのでしょうか……」


 リョコウバトさんはそうつぶやいて、少しの間沈黙しました。


「…………きゅる」

「!」


 ゲームで遊んでいたはずのハト丸が、いつの間にかこっちを隠れながら覗き込んでいました。

 心配そうにこちらを見ているハト丸に、リョコウバトさんは抱きしめました。


「ごめんねハト丸ちゃん。たとえ飛べなかったとしても、あなたは私の大切な子供ですわ」

「きゅる」


 二人を見つめながら、私は他に方法がないか考えていました。

 ……うーん、そもそも空なんて自力で飛べるわけないしな

 走るくらいしか――



――「おいらの勝ちー!」


 そういえば、あの子は鳥だったよな、頭から羽が生えていたし。

 そして、足も早い。

 …………ハト丸の仲間? もしかして飛べるんじゃね?

 これだ!!


「きゅる!?」

「まあ……びっくり」


 息子が飛べるかもしれない可能性に、私は喜ばずにはいられませんでした。



●続く!



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