第十一話 ハト丸の反抗期

●第十一話 ハト丸の反抗期



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 回想 一週間前

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「おにいちゃーん! あそぼー!」

「おじさん、あそぼう!」


 玄関の前で、カミ太くんとイル助くんが元気な声で呼んでいました。

 はいはい、今開けるね


「「お邪魔しまーす!」」


 二人は靴を脱いで、とてとてと上がりました。

 部屋に上がると、「獣戦隊フレンジャー」のソフビ人形で遊んでるハト丸がいました。


「あ、お兄ちゃんの子供!」


 名前はハト丸だよ


「きゅる」

「おおー、おじさんとリョコウバトさんの……むふふ」


 イル助くんは変な笑みを浮かべていました。

 あ、あんまり変なことは考えないで……


「ねえねえ、なんか面白いのない?」


 カミ太くんとイル助くんは早速部屋の戸棚とはダンボールとかを物色しながら、聞いてきました。

 んーみんなで遊べるおもちゃか……


「あ! えっちなフィギュア!」


 イル助くんやめて! それ隠してたやつ!

 エッチじゃないただのフィギュアだから!

 ……まあパンツは覗けるけど


「ねえ! お兄ちゃんこれ!」


 カミ太くんが見つけたのは、レトロゲームが数十本収録されてるゲーム機でした。

 リョコウバトさんと出会う前に買ったものです。

 お、これならみんなで遊べるかな


「わーい! お兄ちゃんとゲーム!」


 そうして、私はゲーム機をテレビにつないで動かしました。

 横スクロールアクションのドット絵が鮮明に動いています。


「きゅる!」


 初めて見るテレビゲームに、ハト丸は興味津々でした。

 ハト丸もやるかい?


「きゅる! きゅる!」


 そうして、私達はゲームで遊びました。

 そして、それがきっかけで、よもやこんなことになろうとは……



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 回想 終了

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「なるほど、私がでかけている間にそんなことがあったのですね」


 リョコウバトさんの顔つきはいつもよりシリアスです。

 それもそのはず、ハト丸はあのあと、とてつもなくゲームにのめり込んでいたのです。

 それも、一日に三十分~一時間とかではなく、その何倍の時間を続けているのです。


「きゅる! きゅる!」


 そうして、夫婦で話している間もハト丸はゲームで遊んでいました。


「アテンションプリーズ! あなたのプレイ時間は二時間を超えていま―す!」

「きゅるるる」


 リョコウバトさんは注意しても、やめようとはしません

 よもや、これが……


「反抗期、ですわね」


 子供、おそるべし……

 とはいえ、言い聞かせられないからって無理やり取り上げるのもどうかと……

 二人でウンウン悩んでいると、


 ピンポーン


「わんわーん!」

「あら、この声はハナちゃんですわね」


 はーい、いま開けるね

 ドアを開けると、ハナちゃんがいました。


「あそびにきました。はとまるくんはいますか?」


 いるよ

 ハト丸ー、ハナちゃんが遊びにきたよ


「きゅるるー」


 ハト丸の鳴き声だけが帰ってきました。

 鳴き声だけで返事してもわからないよ……


「おうちのなかであそびたいのですね。

 おじゃまします!」


 ハナちゃんには伝わってる?!

 とまあ、ハナちゃんをうちに入れました。


「きゅる、きゅる」

「げーむ、ですか? わたしははじめてです」


 ハト丸はハナちゃんとゲームして遊ぶそうです。

 お前はまだゲームで遊ぶのか……

 リョコウバトさんはため息交じりに、


「三十分だけですわよ」


 と言いました。


「はーい、はとまるくんのおかあさん」

「きゅるー」


 そうして、二人はゲームで遊び始めるのでした。



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 数日後

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「そとであそびたい!」

「きゅるるる!」


 なんと、ハナちゃんとハト丸が喧嘩をしています。

 何があったの?


「ずーっとげーむでばかりあそんで、わたしつまらない!」


 どうやら、ハト丸はゲームでばかり遊ぶせいで、ハナちゃんはむくれているようでした。

 ねえ、ハト丸。ハナちゃんとお外で遊んできな


「きゅる!」


 それでも、ゲームが気になるようです。

 その言葉を聞いたハナちゃんは、怒り顔から、だんだん泣き顔に変わっていきました。

 私はあ、っと思ったときにはすでに泣き出していました。

 ハト丸も、突然の涙を驚いたように見つめていました。


「もうしらない! べつのともだちとあそぶ!」


 そうして、ハナちゃんは家から飛び出していきました。

 ハト丸……ハナちゃん悲しんでたよ……

 私はハト丸に、追いかけて謝ってきな、と言おうとした時、ハト丸の行動に衝撃を受けました。


――なんと、ハナちゃんが出ていった玄関とゲーム機を交互に見つめて、どうしよう、どうしようと悩んでいたのです。


 まじか……

 いや、気持ちはわからなくもないよ。

 ゲームしてるところを横から見てて、かなりのクライマックスで気になる展開だったよ。

 でもこんなことで、ハナちゃんの気持ちを無視するなんて最悪だ

 私がそう伝えようとすると――


「ゲーム、持っていきますわ」

「きゅる?!」


 なんと、突然現れたリョコウバトさんは、ゲーム機のケーブルを引き抜き、取り上げました。


「キュルルル!!」


 母親の暴挙に、ハト丸は激怒しました!

 ……ごめんけど、同情の余地なし!


「私のスピードについてこれますか?」


 リョコウバトさんは窓からベランダにでて、そして羽を広げて飛んで行きました。


「キュルル……!」


 悔しそうに、空を見つめるハト丸。

 しかし、ゲーム機を諦めませんでした。

 ハト丸の小さな頭に生えている小さな羽をぱたぱた動かしています。


――もしかして、飛ぼうとしてる?!


 ハト丸は、渾身の力を込めて、ジャンプしました!


「キュル!」


 ずてん

 と、地面に転んでしまいました。


「きゅる~」


 擦りむいて怪我はしてないようでしたが、ただただ去りゆく母親とゲーム機を悲しそうに見つめていました。

 この子もこの子なりに頑張ったのだと思うと、なんだか怒るに怒れませんでした。

 よしよし、よく頑張った

 また後でハナちゃんに謝りな


「……」


 反省してるのかはわかりませんが、少なくともこの子なりに考えているようでした。

 ……よし、リョコウバトさんが帰ってくる前においしいご飯作って、みんなでいつもどうり食べようか


「……きゅる」


 ハト丸は小さな声で返事をしました。



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 次の日

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「じゃーん! どうだお兄ちゃん! ハト丸!」


 遊びに来たカミ太くんは、絵を見せました。

 その絵は、ハト丸が生まれる前のものより遥かに上達していました。

 おおー結構うまいな


「入選したんだ!」


 それはすごい!

 カミ太くんをよしよしすると、


「くすぐったい!」


 といって喜んでいました。


「きゅる! きゅる!」


 おや、ハト丸が興味を示してる。


「ハト丸もなんか描いてみる?」

「きゅる!」


 そうして、二人はお絵かきを始めるのでした。

 ……ゲーム機を取られてからちょっと落ち込んでいたから心配だったけど、私の心配しすぎだったな。


 ほとぼりが冷めた頃に、リョコウバトさんは、ゲーム機を返しました。

 今度はハト丸も一日一時間をちゃんと守っています。

 そして――


「きゅる!」

「まあ! 上手ですわ!」


 私達夫婦は毎日、ハト丸が描いた絵を見ては喜んで、部屋の壁に飾っていくのでした。



●第十一話 ハト丸の反抗期 完


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