第八話 タイリクオオカミの騒動 後編

●第八話 タイリクオオカミの騒動 後編



 タイリクオオカミの男の子は、パチリと目を覚ましました


「うう……ん?」


 おはよう。何か調子悪いところとかない?


「ああーーー! あの暴力おばさんの彼氏!」


 とまあ、私を見た途端に、敵対心をむき出しにしていました。

 この様子なら大丈夫そうだな。

 私はこの子が目覚めたときのために、予め飲み物を買っていました。

 オレンジジュースと炭酸ジュース、どっちがいい?


「え! いいの?」


 私がいいよ、というと、この子は、オレンジジュース! といいました。

 私が、オレンジジュースのペットボトルを渡すと喜んで蓋を開けて、ガブガブ飲みました。

 おいしい?


「おいしい!」


 お、すこし打ち解けたぞ。

 ちなみに私はリョコウバトさんと結婚したから、彼氏じゃなくて旦那だよ

 君の名前は?


「タイリクオオカミのカミ太だよ」


 子供らしいかわいい声で返事してくれました。

 カミ太くん、楽しそうにしてたけど、何して遊んでたの?


「……」


 カミ太くんは、言っていいのか迷ってそうな様子でした。

 大丈夫、誰にも言わないよ、絶対に約束する


「! んとねーみんなにね、いたずらしたり、いじわるして遊んでたの!」


 明るく、生き生きした様子で言いました。

 ああ、無邪気で可愛らしいな……いろいろあれだけど……。


「僕のノート、見せてあげる……あれ?」


 カミ太くんは、ビームで炭になってしまったいじわるノートに気が付きました。

 すると、カミ太くんは、だんだん泣き顔になっていきました。

 も、もしかして……


「わああああん! うわあああん! 僕のノートがぁ! 頑張って、たくさん、あつめたのにぃいい!」


 カミ太くんは大声で泣き叫びました。

 そんなカミ太くんに対して、思わず私は頭をよしよしとなでていました。

 そうだね、辛いね、たくさん集めたのにね……

 私はカミ太くんが泣き止むまで、慰めの言葉をかけていました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

 少し時間が経ちました。

~~~~~~~~~~~~~~~~



 落ち着いた頃を見計らって、カミ太くんに尋ねました。

 どうしていじわるを集めてたの?


「楽しいから!」


 なるほど……いたずらは楽しいよね

 まあでも、子供とはいえ、こんなの繰り返してたらこの子のためにはならないよな……。




 いや……? それ以前になんか違和感があるな……?

 このぐらいの子って、普通に友達とワイワイやってるよな。

 ねえ、カミ太くんって誰とよく遊ぶのかな?


「……ゾウ太郎くん」


 ゾウ太郎くんって、今どこにいるのかな?


「よくわかんない。……どっかに引っ越したもん」


 そういうことか……。

 仲良しの子がいなくなって、寂しさ余っていたずらを始めたのか。

 ……お兄ちゃんと二人でさ、友達を探さないかい?


「……うん! お兄ちゃん!」


 カミ太くんの表情はとても輝いていました。

 ああ、男の子ってかわいい……ゲフンゲフン。

 新しい弟分と二人で公園から歩き出しました。



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 通行路

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「あっ! リョコウバトの旦那さんだ!」

「お久しぶりです」


 なんと、通りすがりのバンドウイルカちゃん(そういや名前まだしらない)とカルフォルニアアシカのアシ子ちゃんにばったり会いました。

 久しぶりだね


「お兄ちゃん、このおねーさんたちは?」


 カミ太くんと二人の女子中学生たちにお互いを紹介しました。


「旦那さんの弟ちゃんかわいいね!」

「こんなに慕われるなんて、旦那さんはリョコウバトさんに負けず劣らずのコミュ力がありますね」


 あのコミュ力には勝てる気がしないよ……

 実は今、二人で友達探しをしているんだ。だれか心当たりないかな?


「……ありますね」


 そうアシ子ちゃんはバンドウイルカちゃんのほうを向いて言いました。


「もしかして、イル助のこと?」


 イル助?


「ルカっちの弟のことです」


 バンドウイルカちゃん――ルカっちの弟……なるほど

 私は会ったことないけど、確かに話に聞いたことがあるね。

 会えないかな?


「呼んでみるね!」


 ルカっちは、キュー、キューと鳴きました。

 すると、たったったと足音が近づいて来ました。


「ネーちゃん呼んだ?」


 やってきたバンドウイルカの男の子――イル助は小学生ながらもかなり整った顔をしていて、将来イケメン間違いなし、といった感じです。


「紹介するね、こちらがリョコウバトさんの旦那さん。そして、この子は旦那さんの弟分のカミ太くん」


 カミ太くんは少し緊張しながらも、よろしくといいました。


「よろしくな!」


 イル助は親指を立てて、グッジョブのポーズをしています。

 姉のルカっちに似て、元気あふれる性格のようです。


「それじゃ、私達は行くから、三人で遊んできて!」

「それでは失礼します」


 そう言って、ルカっちとアシ子ちゃんは去っていきました。

 それじゃあ、三人で遊ぶか……何して遊ぶ?


「んもう、おじさん。男三人での遊びなんて、あれしかないよ」


 そう言ってるのは、イル助です。

 な、何があるんだ……?


「スカートめくり!」


 いたずらよりたち悪いわ


「わあ……面白そう!」


 お願い! 影響されないで!

 てか、君たちなら許されるけど、お兄ちゃん捕まっちゃう!

 そう言いつつ、三人で楽しく遊びました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

 夕方になりました

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「じゃあねー! また会おうぜー!」

「また遊びにくるから!」


 イル助くんと別れました。

 二人は意気投合して、とても仲良しになりました。

 楽しかったね


「うん! ありがとね、お兄ちゃん!」


 私はカミ太くんの頭をよしよしとなでました。

 ああ……癖になる……


「くすぐったい!」


 そんなこんなしていると、たまごちゃんを抱えたリョコウバトさんが飛んできました。


「あなた~ご飯が出来ましたわよ」


 リョコウバトさんをみたカミ太くんは、ああっ! と大声で言いました。


「暴力おばさん! また来たな!」


 そう言って、警戒するカミ太くんに対して、リョコウバトさんはふふっ! と笑った後、


「大丈夫、何もしませんわよ」


 と言いました。

 カミ太くんはなんとなくバツが悪そうな表情になりました。


「お兄ちゃん、じゃあね!」


 そう言って、カミ太くんは走り去っていきました。

 ……リョコウバトさんは、あの子――カミ太くんに対して、もう怒ってないんだよね?


「ええ。もちろんですわ」


 リョコウバトさんは清々しい様子です。


「嘘で謝るよりも、正直に暴力おばさんって言ってくれる方が私は嬉しいですわ!

 ……優しいあなたに任せて正解でしたわ」


 ……なんか照れるな

 とまあ、二人とたまごちゃんとで、家路につきました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

 次の日

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 カミ太くんはうちに来ました。

 理由は、リョコウバトさんとたまごちゃんに謝りたいとのことです。

 そして驚くべきことに、これまでいたずらで迷惑をかけた方々に対して、自主的に謝罪して回っているそうです。

 もちろん、リョコウバトさんと私は謝罪を受け入れてカミ太くんを許しました。


「ねえ、カミ太くん」

「どうしたの?」

「もう一度、たまごちゃんに絵を書いてみませんか?」

「え……?」

「カミ太くんが楽しんで書いた絵なら、この子もきっと喜ぶと思いますわ」

「……わかった! 書いてみる!」


 後の世では、カミ太くんは【絵】に関する分野で大いに名を残すことになるのだが、このときの誰も知る由もありませんでした。



●第八話 タイリクオオカミの騒動 完


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