第七話 タイリクオオカミの騒動 前編

●第七話 タイリクオオカミの騒動 前編



 卵を温めていく日々が続きました。

 リョコウバトさん曰く、卵がかえるまで、二週間かかるそうです。

 日中はリョコウバトさんが温めて、深夜から早朝にかけては、自動孵化器(インキュベーター)で温めました。

 自動孵化器みたいな便利なものがあるのに、日中は自分で温めるなんて、母親の愛情を感じるね


「はあ~卵のひんやり感がとっても気持ちいですわ……」


 あ……愛情……?

 なにはともあれ、大事そうに卵を抱えるリョコウバトさんでした。



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 ある日

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 私が買い物から戻ると、リョコウバトさんがひどく動揺した様子で、大変だわ! 大変だわ! と玄関にいた私に走ってきました。

 何があったんだい?!


「ほんの少し、目を離したら……わ、私達の卵に……」


 あまりの尋常ならない様子に、息を飲みました。


「へんな落書きされたんです!!」


 なんて酷い!…………のか?

 リョコウバトさんが抱えた卵にはヘノヘノモヘジのような絵がマジックで書かれていました。

 はぁぁ、と肩から力が抜けました。

 卵そのものは無事で何よりだ……


「犯人が窓から逃げた痕跡がありましたわ!

 すぐにすべての鍵をかけて!」


 すべての窓に施錠をかけた後、リョコウバトさんは卵を自動孵化器に入れました。


「たまごちゃんの敵討ちをしてきますわ」


 私を抱えて、リョコウバトさんは飛びました。


 そうして、空から犯人を探していると、何やら暴れている動物がいました。


「まあ、あの子……」


 高度を落として近づくと、ビースト化した女子中学生のタヌキちゃんでした。


「熊本県民ゆるさない! 熊本県民ゆるさない!」


 そんなことを言って、通りすがりのヒトを襲っていました。

 それを見たリョコウバトさんはビーストタヌキちゃんに近づいて――


「手羽先ビンタ」

「!!」


 パァン

 リョコウバトさんの頭の羽でタヌキちゃんをビンタしました。


「うう……痛いよう」

「正気に戻りましたか?」


 タヌキちゃんはこくりとうなずきました。


「何でビーストになっていたのですか?」

「じつは……」



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 数分前

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「ねえ! お姉さん」


 タヌキちゃんに近づいて来たのは、小学生ぐらいのタイリクオオカミの男の子でした。

 タヌキちゃんにとって、知らない子でしたが、お姉さんという呼び方にときめきを感じて、気を許してしまいました。


「なあに?」

「お姉さんに楽しい歌を聞かせてあげるね」

「ほんと? 聞きたいわ」


 そして、タイリクオオカミの男の子は歌いました。


「♪あんたがったどこさ 肥後さ 肥後どこさ

 ♪熊本さ 熊本どこさ」


「いい歌ね!」


 そうして、タヌキちゃんが褒めると――


「この歌ね、最後にタヌキちゃんが鉄砲で撃たれてね」

「え?」

「煮られて食べられちゃうんだよ」

「え?」



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 回想 終

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「そうして、私ったらいつの間にか、熊本のヒトに切れちゃってて……」

「タヌキちゃんのお気持ち、とってもわかりますわ」


 でも、この話に出てきたタイリクオオカミの男の子ってもしかして……


「ええ、探して話を聞きましょう」


 そうして、リョコウバトさんと一緒に空へ飛びました。



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 公園

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「くっくっく……」


 邪気に満ちた笑みを浮かべたタイリクオオカミの男の子は、ベンチに座って一冊のノートに絵と文章を書き込んでいました。


「僕のいじわるノート、こんなにいっぱい増えた……くっくっく」


 そのノートには、リョコウバトの卵にいたずらした、タヌキが食べられる歌をタヌキに教えたなど、たくさんのいじわるなことが書いてありました。


「くぁーーはっはっは!」


 大笑いしていると……


「あなたが犯人ですわね!」

「!!」


 空からリョコウバトさんが飛んできて、タイリクオオカミの男の子の目の前に着地して、指を指しました。


「私のたまごちゃんにちょっかいをかけたこと、タヌキちゃんに酷いことを言ったこと、猛反省してもらいますわよ」


 すると、タイリクオオカミの男の子はさり気なくいじわるノートを隠して、しらばっくれるように言いました。


「なんの話ですか? 勝手に犯人扱いしないでくれる?」


 どうせバレやしないと、思っていると――


「も う わ か っ て ま す わ よ」


 リョコウバトさんは恐ろしい表情で、タイリクオオカミの両腕をがっしりつかみました。

 隠してた、いじわるノートも、出てきました。


「まって、リョコウバトさん、僕が悪かったよ!」


 そうして、タイリクオオカミは謝罪の言葉を言いました。


「許してほしいですか?」

「お願い、許して」

「反省していますか?」

「心の底から反省してる!」

「もうしませんか?」

「ぜぇったいにしない!」


 タイリクオオカミの男の子の言葉を聞いたリョコウバトさんは、優しい笑みを浮かべました――







「だめですわ」

「え?」

「バトビーム!」


 タイリクオオカミの男の子は、うぎゃあああ、と断末魔をあげ、いじわるノートとともに光に飲まれていきました。

 おいおい、これは大丈夫なのか……


「大丈夫、みね撃ちですわ」


 みね……撃ち?

 タイリクオオカミの男の子は、黒焦げで、目を回しながら倒れ伏していました。

 そして、いじわるノートはこの世から消え去りました。


「あなた」


 ?


「後は任せましたわよ!

 たまごちゃんのお世話に戻りますわ!」


 そうして、リョコウバトさんは飛び去りました。

 私と、黒焦げの男の子を残して……



●続く!

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