第六話 リョコウバトさんの出産
●第六話 リョコウバトさんの出産
非常に喜ばしいことに、リョコウバトさんは懐妊しました。
これからのことを考えると、色々忙しくなりそうです。
けど、これまでの人生で一番力が湧いてきます!
とまあ、そんなことを考えていると……
ピンポーン
「宅配便でーす。リョコウバト様はいらっしゃいますか?」
「あ! きっと例のものですね!」
そう言って、リョコウバトさんは扉を開けて、宅配便のヒトと話をしています。
「荷物はどこにおけばいいですか?」
「庭の方へお願いします。もう大家さんの許可はとってますわ」
? 宅配便にしては、少し立て込んだ話をしてるな……
話し終わった後、リョコウバトさんは私を呼びました
「あなたも来て見てみましょ!」
……一体何の話だろう?
リョコウバトさんと一緒に、外に出ました。
私達の住んでるアパートのベランダ側には、そこそこ大きな花壇と庭が広がっています。
本来そこには、大家さんの奥さんの趣味で、きれいな花が植えられているのですが、何故か庭の真ん中には、直径1メートルくらいの大穴が掘られています。
そして何より、その周囲に馬鹿でかいトラックとクレーン車が停まっていました。
……あ、あれはなんだ!?
クレーン車が持ち上げてたのはたくさんのドングリを実らせた樫(カシ)の木でした。
そして、大穴に……
ズガーン!!
と植えました。
「まあ! 立派な樫の木! さすがアメリカの大統領! 太っ腹ですわ!」
え? 大統領から……なの?
「ええ、大統領からのプレゼントですわ」
な……なぜそんな偉い人から……
「奴らより、私のほうが強いからですわ」
……この話は聞かなかったことにするね
すると、いつの間にか私の真横にいた大家さんの奥さんが樫の木を見上げて、喜んでいました。
「まあ~立派な樫の木ね~
私も昔はよくドングリを食べていたから懐かしいわ~」
え? 奥さん、ドングリ食べていらしたのですか?
「私も結婚する前はよく、ドングリやたんぽぽを食べたり、ザリガニやサワガニを釣って食べたり、近所の家から野菜カスをもらって野菜炒めを食べたりしてたものだわ~」
……この話も聞かなかったことにしますね
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数日経ちました
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私達の食生活が一変しました。
もちろん、妊婦が食べてはいけないものは、食卓に並ばせないようにしているのですが、それだけではありませんでした。
「本日の夕食は、ドングリの味噌汁とドングリのおひたしとドングリの炊き込みご飯とドングリの皿盛りとジャパリまんドングリ味ですわ」
せめてジャパリまんは普通のジャパリまんにしてほしかった……
「ドングリ味はお口に合いませんでしたか?
これは私が選んだのではなくて、3丁目のツキノワグマさんからのいただきものですわ」
なら仕方ないな
こうして、庭の樫の木から取れた大量のドングリを食べ続ける生活が続いていました。
ちなみにリョコウバトさんの料理スキルも向上しているおかげで、意外と美味しく食べられます。
ドングリの皿盛りしか作れなかったときとは大違いです。
「やはりふるさとの味こそ、最高の贅沢ですわね」
リョコウバトさんが美味しそうに食べてるのを見ると、私もほっこりした気持ちになります。
お腹の赤ちゃんもドングリですくすく成長するんだと思うと、ドングリもやぶさかじゃないな
「ふふ……早く大きくなって一緒に食べたいですわね」
リョコウバトさんは、自分のお腹をなでながらそう言いました。
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数ヶ月経ちました
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ついに待ち望んだ瞬間が来ました。
たくさんの方々から、声援と力を借りて、ついにここまで来ることが出来ました。
――長いようで短かった
――安全で自動的に子供は生まれてこないって話は聞くけど、本当に大変だった
深い呼吸を続けるリョコウバトさんは、安堵の笑みと涙を浮かべています。
よく頑張ったね……
「ええ、これが私達の――」
俺達の――
「「たまごちゃん」」
真っ白い卵をリョコウバトさんは両手にそっと持ち上げて、抱きしめました。
……子供の顔をみるのは、まだ先のようです。
●第六話 リョコウバトさんの出産 完
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