第三話 リョコウバトさんとの二人暮らし

●第三話 リョコウバトさんとの二人暮らし



 会社から帰宅の途中、大家さんの奥さんとばったり会いました。


「あらぁ~リョコウバトさんの旦那さん、こんばんわ~」


 こんばんわ


「ご結婚おめでとう~素敵な嫁さんもらいましたね~」


 ありがとうございます

 あれ? まだ紹介してないのに、なんでリョコウバトさんの事知ってるんだろう?

 そうして軽く会釈して別れると、今度は見知らぬ二人組の女子中学生が私を指差し、ヒソヒソ話をしていました。


「ねえ、あのヒトがリョコウバトさんの旦那さんじゃない?」

「へー、あのヒトがそうなんだ!」


 すると、そのうちの一人が私の方へ近づいてきました。

 見た目から、その子はバンドウイルカの女の子であることがわかりました。

 ショートの青い髪がとても可愛いです。


「あなたがリョコウバトさんの旦那さんなんですよね?」


 そうだよ


「先日は迷子になった弟を連れてきてくれてありがとうございました!」


 バンドウイルカの女の子はペコリと頭を下げました。

 え? リョコウバトさんの知り合い?


「うん! 私と弟と、ここにいるカリフォルニアアシカのアシ子ちゃんでね、遊びに行ったときに、迷子になった弟を連れてきてくれたんだよ!」


 おおーそうなんだ

 すると、メガネをくいっとしたアシ子ちゃんが言いました。


「リョコウバトさんに、アメリカの話を聞かせてもらいました。

 とても興味深かったと、旦那さんからもよろしくお伝え下さい」


 そうして、二人は去っていきました。

 私が家に帰り着くまでに、「あ、旦那さんだ!」「先先日はどうもお世話に……」「お幸せにー!」みたいなことを知らない方々から言われ続けました。

 有名人すぎるよリョコウバトさん……



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自宅

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 ただいまー


「おかえりなさい、あなた」


 ドアを開けると、リョコウバトさんが料理をしていました。


「もうすぐ出来ますわよ」


 了解です

 私は部屋の中に入りました。

 部屋はリョコウバトさんが掃除してくれていて、ゴミ一つ落ちておらず、ピカピカしています。

 スーツを脱ぎ、動きやすい部屋着に着替えたあと、何気なしにテレビを付けました。



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わくわく! 動物テレビ

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-今日紹介する動物は、地上最速の生物【チーター】-


-チーターはアフリカに住む肉食動物で、驚くべきことは最高時速は120kmと、高速道路の自動車とほぼ同じ速さで走ることが出来るんです-


-VTRを見てください。ここはアフリカの草原、カメラは一匹のチーターを撮影しています-


-おや? チーターの餌であるプロングホーンを見つけたようです-


-チーターは狙いを定め、ダッシュ!-


-壮絶なスピード競争、制したのはチーターでした-


-鋭い爪でプロングホーンを抑え込んでいます-


「ふっ、私の負けのようだ……さあチーター、私を食べてくれ!!」

「食べないわよ!! 狩りごっこで遊んだだけじゃない!」

「私はお前の血肉として、共にスピードの頂点を目指そうじゃないか!」

「発想がやばいわよ!?」


-地上最速の動物チーター、彼女が目指すスピードの頂点に終わりはありません-


-これからも、生き残るために厳しい自然界を走り続けることでしょう-



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わくわく! 動物テレビ 終

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「はい! 出来ましたわ」


 リョコウバトさんはテーブルに二人分の食事を並べていきました。

 今日の夕食は、五穀米入りのご飯、納豆、豆腐の味噌汁、大豆と大根の煮物、ジャパリまん(スーパーの既製品)です。

 最高に美味しそうだ

 更に上達したんじゃないか?


「ふふっ、努力の賜物ですわ!」


 最初の方は失敗作が出来上がっていました。

 しかし、徐々にコツを覚えていった結果、レパートリーこそ少ないものの、とっても美味しく作ることが出来るようになったのです。

 ごちそうさまでした! 今日も最高の豆料理でした!


「お粗末さまでした。お風呂、沸かしますわね」


 私がするよ


「あら、じゃあ任せますわね」


 リョコウバトさんは、お皿の片付けをはじめました。

 私はお風呂をごしごししながら、私はしみじみと考えていました。

 ああ……こういうことを幸せと言うんだな……

 けれど、この大きな幸せの中に、小さな不満を感じてる自分がいる……

 結婚もした。キスもした。しかしエッチをしていないのである。


――もう一度いうと、エッチをしていないのである


 二人で布団を敷いて、一緒に寝ているのだが、すぐにリョコウバトさんは眠りこけているので、なんとなく手が出せませんでした。

 というか、こういうのって最初はどうするのが正解なんだ?

 ……こういうことだからこそ焦ってはいけない

 順序よく、階段を一段ごと上がっていくように物事をすすめるべきじゃないか!


 よし! そう思い立った私は、お風呂掃除を終わらせて、リョコウバトさんに話しかけました。

 リョコウバトさん!


「はい?」


 私と一緒にお風呂に入りませんか?


「……ぁ」


 リョコウバトさんの顔は徐々に赤くなっていきました。

 目をあちらこちらへと泳がしています。

 ……あれ? 私の考えてた一段目って、もしかしてデカすぎ……?

 するとリョコウバトさんは、火照った顔をピシャリと私に向けて、しっかりとした口調で言いました。


「ええ、喜んで!」


 YES、私の考えに間違いなんてありませんでした。

 リョコウバトさんとのお風呂、楽しみだ



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お風呂

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 リョコウバトさんの裸を初めて見た時、とてもドキリとしました。

 肌はきれいで、スタイルは横から見るときれいなS字を描いていて、膨らんだ胸は大きいだけでなく張りがあるので、女優さんのような気品を感じます。


「んもう、体ばかり見るのは良くありませんわ」


 はい……気をつけます……


「あなた、お背中を流しますわ」


 お、お願いします

 リョコウバトさんが、石鹸をタオルで泡立てて、私の背中を洗っていきます。

 そういえばリョコウバトさん

 仕事帰りに、リョコウバトさんの知り合いからたくさん声をかけられたよ


「まあ! 嬉しい!」


 リョコウバトさんはウキウキしています。

 よくこれだけたくさんの方々と仲良く出来るね


「ふふ! すごいでしょ」


 確かに、友達百人を目指せるんじゃない?


「いいえ、出会う方々全てと友達になりたいですわ」


 それはすげえ……

 リョコウバトさんが私を洗い終わりました。

 今度は私がリョコウバトさんの背中を洗うね


「お手柔らかにお願いしますわね」


 リョコウバトさんの背中を石鹸の泡で洗います。

 華奢で美しい……どれほど価値がある芸術品でも、リョコウバトさんにはかなわないな……

 そして、すごい気になるのは、頭についている小さな翼……

 少し触るね……


「え!? ひゃん!」


 どうやら驚かせたようです。


「さ、触るなら、もう少し優しく……」


 うん、わかった

 いい触り心地だ……そして、むず痒い顔をしたリョコウバトさんがかわいい。

 リョコウバトさんを洗い終わったあと、二人で湯船に浸かりました。

 狭いので、私を下にして、リョコウバトさんを後ろから抱きしめるように入ります。


「お風呂気持ちいいですわね……」


 そ、そうだね~


――触り心地が、すごい

――全身が、リョコウバトさんで満たされる

――感触も、匂いも、密着しすぎてすごい!


 そ、そういえば、昨日はバンドウイルカの迷子くんを助けたんだって?

 お姉ちゃんが、ありがとうって言ってたよ


「あの可愛らしい姉弟さん達ですね!

 いいですわね~私もあんな可愛らしい子がほしいですわ」


 ドキリとしました。

 私の中の生き物としての本能が騒ぎ始めました。

 っ……! 俺もリョコウバトさんとの子どもがほしい!


「嬉しいですわ!」


 私はリョコウバトさんとキスを交わそうとした時、リョコウバトさんの様子が少し変なことに気が付きました。

 顔が赤く、意識が少し朦朧としています。

 もしかして、のぼせた?……


「うう……そんな感じがしますわ……」


 カラスの行水というように、鳥の長風呂は禁物のようです。



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布団

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 床に敷いた布団に、リョコウバトさんがすやすや眠っています。

 今日はエッチは出来なかったものの、天国に昇るような気分です。


――こういうの、幸せだなぁ


 リョコウバトさんの隣で、私は眠りに付きました。



●第三話 リョコウバトさんとの二人暮らし 完


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