サプリメンタルデータ
* * *
「さて今日出来るのはこんなところですか、また明日の......午後にでも来てください」
「そんなに時間がかかるんだ」
「時間はかかりますし、正直どれくらいかかるかも読めませんが、明日は午前中バイトなので」
「え、バイトとかするの?!」
高崎は目を見開いて意表を突かれたような声を出した。
「あんたんとこ金持ちじゃないの?!なんでバイトなんてしてんの」
「親が出してくれてるのは家賃と光熱費くらいですからねえ」
さっくりと、何気ないように文部は言った。
「生活費、なにより研究費は自分で稼いでますよ」
「はー、苦労してんだな......ちなみに明日のバイトってどれくらいもらえんの」
「大したことはありません。半日、早朝から午前中拘束で15000円位ですか」
すると高崎は無表情と無言でスマホを出すとどこかに通話をかけた。
「あーシビチ?おねーちゃんの部屋に合宿用のバッグ有るでしょ?......そうそう、赤いやつ。それもって指定の住所へ来なさい。他のに触ったらコロス」
ぴ、とスマホを消すと高崎はちょっと低めの文部の肩を抱いてくせっ毛の頭を抱えて猫なで声を出しはじめた。
「もんぶさーん、そのバイトってまだ空きある?あるよね?是非紹介しろくださいお願いしますなんでもしますから」
「......気持ち悪い、何ですか。そりゃ人手はいつも不足してる職場ですしありますが、明日は早いですよ?」
「だから荷物もってこさせてるし。あ、寝るとこはそこのソファーでいいから!」
「ずうずうしいといっては今さらですが、何するかとか聞かないんですね」
「何、ヤバイ仕事とかなの?」
「いえ普通の」
「普通ならいいじゃん」
「農作業です」
高崎はほっかむりした文部を想像した。ほっかむりの横から毛がはみ出している。
「......似合わない」
「どうします、やります?やめます?」
その時ピンポーンとインターホンが鳴った。
「弟さんですか?」
「うん」
「どうぞお入りください、鍵は開けました」
インターホンに文部が呼び掛け、しばらくしたら高崎弟が玄関まで大きな荷物をもって上がってきた。
「いいシビチ、おねえちゃんはこれからこの勉強がめっちゃできるお姉ちゃんと夏休みの宿題の勉強会で泊まり込むから。おとうさんおかあさんにもそう伝えて」
無言で高崎弟はうなずくと一言も言わずに帰っていった。
「無口な子ですね」
「まあ昔からね」
「似てませんね」
「よく言われる」
「シビチさんですか」
「いやそれあだ名」
* * *
「晩御飯とかどうすんの」
「オレンジ味とチーズ味のどちらがいいですか」
「なにその謎チョイス」
「栄養強化したショートブレッドですが」
「いやそこのでかい冷蔵庫は飾り?」
「よく知りません」
「独り暮らしの自分の家なのに?」
「週2で来るヘルパーさんが料理してるときだけ開きます」
「じゃあ材料はあるんだ。開けていい?何か作るよ」
流石ブルジョア、ヘルパーさんとか来るんだーと思いながら高崎は冷蔵庫を開けた。
「真空パックの豆とチーズ、なんだこれ......スパイスか。戸棚も開けていい?」
「どうぞ」
「おートマト缶とパスタあるじゃん。これならいける」
「せめて食べられるものをお願いします」
「あんたも大概口が減らないな」
そこからの高崎は以外にも手際が良かった。
綺麗に洗って立て掛けてあったフライパンでゆで豆を炒め、スパイスをいれる。そこにトマト缶をざばーっと入れ塩胡椒で味を整え、ゆでたパスタと皿に盛りあわせた後でチーズを卸金でおろし入れた。
「たぶんうまいはず」
「ベジタリアンですね」
「肉はなかったからなー」
ショートブレッドと無名のパスタをもくもくと食べる。横のがんばる君はLANケーブルの根本をちかちか光らせ、ハードディスクをガリガリ言わせながら働いている。
「自炊できるとは意外でした」
「簡単なやつだけどね」
もぐもぐとショートブレッドを齧りながら少し自信げに高崎は言った。
「うちはわりと自由な家でさ、みんななんか食べたいものを買ってきてはそれぞれが作って食卓に並ぶ感じなんよ」
「へえ」
「弟がからあげばっか作ってたこととかあったなー、さすがに台所が油でえらいことになってたので怒られてた」
「楽しそうな家ですね」
「あれしろーこれしろーって言われないのは寂しいところもあるけどね」
「......」
「もんぶのところも自由じゃん、この歳で独り暮らしさせてもらえてるんでしょ?」
「まあそうかもしれませんね」
「他人事みたいに」
くすりと高崎は笑った。文部の表情は変化しなかった。
「さて洗い物したらもう寝ます。明日は早いので」
「りょーかい」
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