第31話 ♢ (閑話)詩穂と慶*指輪③*

 慶は続けて言った。

「詩穂さん、ごめんね。僕は女の人へのプレゼントとか全然わからなくて。詩穂さん、金属アレルギーあるって言ってたでしょう。たがら、アクセサリー類はダメなのかなぁと思ってたんだよ」


 詩穂は子供っぽく拗ねていた(まさに拗ねてたんだと今更ながらに思う)自分が恥ずかしくなる。

「うん、ごめんね、慶ちゃん」

 こんな風に相手の気持ちがちゃんとわかると、安心と共に、すぅーっと沈んでいた気持ちが消えていくから現金なものだ。


「どんな指輪が欲しいの?」

 慶が聞く。

「アレルギーとか大丈夫なの?」


 詩穂は、ちょっと迷いながら答える。

「あのね、純銀の指輪をネットで見つけてね。コーティングもされているし、これなら、アレルギー大丈夫だと思うんだ」

「それで値段…だけどね、3,000円……しちゃうんだけど……」


「うんうん、そっか、良かった。それなら僕にも買えそうだよ」

 慶は言いながら思う。

(いじらしいなぁ、何万とするような高いものじゃないのに)

 純銀というのも詩穂らしかった。


「一緒にそこのネットショップ見てみよう。

 お店のアドレス教えて」


「うん!」


 二人は一緒に電話しながらパソコンでネットショップの純銀の指輪を見てみる。


「うんうん!いいんじゃない!これに決めていいかな?」

 慶が詩穂に尋ねる。


「うん、ありがとう。いいのかな」

 詩穂の嬉しそうな声。


「勿論だよ。じゃあ、注文して、今度逢う時に僕が持っていくからね」


 左手の薬指のサイズを聞いてから、注文。


 詩穂は嬉しかった。

 そう、別にこれは婚約指輪でも、結婚指輪でもないけど、

 左手の薬指のサイズを聞いてくれたから。


 しるし、みたいな気がして。


 §


 誕生日デート当日、慶に指輪をはめてもらって詩穂が嬉しさで涙ぐんでしまったことは

 ……また、別のお話。


 そして……五年目、彼女の左手の薬指に今でもちゃんと、細かい傷がついた純銀の指輪があって、それを彼女が何よりも大切にしていることも……。

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