第30話 ♢ (閑話)詩穂と慶*指輪②*
逢う日にちの1ヶ月前、二人は電話で話していた。
誕生日プレゼントのこと。
でも何だか詩穂はハッキリしないし、慶は察することができない。
お互いがお互いに少し苛立っていた。
” 察して欲しいのに ”そんな思い。
◇詩穂は話しながら、気づいて貰えないことに悲しくなっていた。
少しは女性心理をわかって欲しい。
言わないと伝わらない事はわかっているけど。
(でも、慶ちゃんは、こういうことになると、まったく察してくれないんだもの )
見当違いに、本は?とかぬいぐるみは?とか言ってくるのに、アクセサリーの話はしてくれない。
(例えば、指輪の話じゃなくても、アクセサリーは?って聞かれたら、指輪のこんな風なのがって話出せるのに)
(だって、付き合いだしてから初めての誕生日なんだよ)
(わたしはオバサンだけど、まったくアクセサリーに興味がないわけじゃないし)
考え出すと馬鹿なイジケゴコロが出てきたりもする。
(わたしなんてアクセサリーを贈る価値がないって思われてるのかな…… )
心の声はどんどん落ち込んでいく。
心の声は出さずにいるつもりだけど、話しながら知らず知らずに声が沈んで、泣きそうになる。
§
◆慶は電話で話しながら詩穂の声が、どんどん沈んでいくようなのに戸惑っていた。
(どうしたんだろう。プレゼント、本やぬいぐるみは?って聞いても、何となく元気がないし)
(少し拗ねてるみたいな感じもするし)
女心って難しい、と慶は思う。
詩穂はあんまり、こんな拗ね方するタイプじゃないのに、とも。
こういうプレゼント関係は本当に苦手な慶だった。
§
あまりにも会話が弾まない上に詩穂が少し涙声になっているのに気がついて、慶は思い切って言った。
「詩穂さん、どうしたの?ちゃんと言ってくれないと、わからないよ」
「ごめん……あのね、あのね」
詩穂が思いきって言う。
「わたし……指輪が欲しい」
「そうだったんだ。詩穂さん、でもなんで、それを言ってくれなかったの?」
「だって、指輪なんて、わたしから欲しがるなんて重いと思われるかなって思ったりしたし」
「だから、慶ちゃんから、言い出してくれないかなぁって思ってたけど」
「慶ちゃん、そういうの全然言ってくれる気配ないし……」
「わ、わたし、は……ゆ、指輪なんか、贈る価値無いと思われて……るのかな……なんて」
最後は抑えてた涙がボロボロ出てきて、声が詰まってしまう。
せめて電話で良かった。みっともない泣き顔見られないから。
そんな風に詩穂は思った。
(こんなことで女の子みたいに拗ねて泣いてしまうなんて。恥ずかしい。オバサンなのに)
その時、
「詩穂さん」
慶の優しい声がした。
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