第29話 ♢ (閑話)詩穂と慶*指輪①*
付き合いだして一年が過ぎた頃、大体、逢うのは三ヶ月に一度。最初のデートをしたあの街で。そんなペースが出来ていた。
◇ちょうど、詩穂の誕生日の月に逢うことが決まり、プレゼントを聞かれた時、詩穂は本当は指輪が欲しかった。
高いものでなくていい。
いつも付けたままでいられるようにと、後は金属アレルギーのこともあるから細かい傷はつくけど純銀の指輪がいいな。
繋がっている印みたいなものが欲しい。
密かに、いくらくらいするかとかまで、ネットで調べたりしていた。
3,000円でシンプルなデザインの素敵な純銀の指輪を見つけた。コーティング加工されているから、傷にも比較的強いみたいだ。
こんなところは貧乏性のオバサンだなぁと、ちょっと自分に苦笑いする。
詩穂は、子供の頃から物をねだるのが下手だった。
「これが欲しい」と言えずに気後れしてしまう。
あまり男性と付き合う機会がないまま、幼なじみの夫と結婚したし、夫も妻にアクセサリーを贈るタイプではなかったから尚更。
きっと、贈られることが当たり前の人にとっては” 3,000円ぽっちで何言ってるの?”なんだろうなぁと思う。
でも詩穂にとっては”3,000円もする”なのだ。
これは若い人だけど、たまたま見たネットのブログで、
『 1万円のリングにガッカリ。私には1万円の値打ちしかないのかとバカにされた気になった』
なんて書いてあって、ビックリした。
(わたしの価値観が、おかしいのかな……)
1万円の値打ちしか私にはないのかと怒って別れようかなんて言ってる人が世の中にはいて。
3,000円の指輪にも
わかっているつもりなのに、比べるものでは無いのに、無意識に比べてしまっている自分が醜く嫌な人間に思えて凹んでしまう詩穂だった。
§
◆慶は悩んでいた。
元々、慶は女性にプレゼントなどしたことがない。
正確にはプレゼントする機会がなかった、と言うべきかもしれない。
詩穂への誕生日プレゼント、どんな物なら喜んで貰えるだろうか。
本、というのも考えたが、彼女の読書量を思えば、重ならないとも限らないし。
アクセサリー……金属アレルギーがあると聞いているし。
情けないけど高いものは予算的に厳しい。
いい歳なんだから、それなりのものを贈るべきなんだろうけれど。
何気なく、詩穂に電話で聞いてみるけれど、「何でもいいよ」って答えるばかり。
妹に相談してみるというのも、この歳になると、ちょっと。
仲が良い悪いじゃなくて、大人になってくると異性の兄妹ってそんなに干渉し合わないし。
(何がいいかなぁ)
雑貨とか?
ぬいぐるみといってもなぁ……。
慶の悩みは続く。
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