第28話◆慶の独白(13)2日目、そしてまたね

ホテルをチェックアウトしたのは11時半を少し過ぎた頃だった。


僕らは着替えた後、部屋でスマホで写真を撮った。

二人の記念撮影。詩穂さんのスマホと僕のスマホで一枚ずつ。

後で送りあおうねって約束した。

寂しくなったら、この一緒の写真を見よう。


部屋を出る前に、

「ちょっと待って」

呼び止めて詩穂さんをギュッとハグしてからキスした。

目と目が合う。

泣きそうな目をして、でも笑ってる詩穂さん。


そうだよね、新幹線は17時だから、まだ一緒にいられる。残りの貴重な時間、楽しく過ごそうね。


チェックアウトを済ませて、駅へ。

荷物はまたコインロッカーに預けていこう。


今日は昨日まわっていなかった駅前にある新刊専門の大型書店に行くことにした。

昨日とはまた違って専門書関係が細かく揃っている。それぞれの特徴があって、これだから書店巡りは楽しい。


二人とも一緒に見たり、お互いの好きな分野の本を少し別々に見たりする。

こういう程良い距離感も心地よい。


13時過ぎていたので、昼食のために本屋さんから外へ。


手を繋いて歩く。

詩穂さんの柔らかな優しい手。

逢うまでは知らなかった温もり。

あと数時間したら、また離れ離れになってしまう。


いけない。詩穂さんがせっかく寂しくなりそうな気持ちを我慢して明るくしているのに僕が暗い顔してどうするんだよ。


「お昼は何食べようか?」

詩穂さんに聞かれて


「そうだねぇ、何にしようか。パスタランチの美味しそうなお店があるみたいだから、そこにしようか?」

と答える。


ネット情報では、そこのランチメニューは本日のパスタとサラダとスープ付きみたいだ。


「うんうん!いいね!そこにしようよ!」


二人とも麺類好きだから、すぐに決まる、


レストランに着いて、本日のランチメニューを見るとモッチェレラチーズのトマトソースパスタだった。


お店はちょうど一組お客さんが出てきた所で、僕達は待たずに席に案内された。


「シンプルだけど、美味しいね!」

僕が言うと

詩穂さんもニコニコと頷く。


ふふふ、彼女の食べっぷりは気持ちよい。

本当に美味うまそうに食べるんだもんなぁ。


今回、下調べの甲斐あって、ハズレがなくて良かった。

きっと、二人で食べたからっていうのも大きいと思う。


食べ終わって店を出たら14時になっていた。

ついつい二人とも時計を見てしまう。


昨日は逢えて嬉しいばかりだったけど、今日は別々に帰らなきゃいけない。


あと、3時間……。

無意識に詩穂さんの手を握りしめている。

このままずっと一緒にいられたら、どんなにいいだろう。


駅前ビルの中で雑貨屋を覗いたり、喫茶店でひと息ついていたら、時間は16時。

コインロッカーに荷物を出しにいって、トイレにも行っておく。新幹線内で飲むお茶も買っておかないとね。


新幹線は詩穂さんの方が少し先の発車時刻になる。

ホームは隣りだ。

詩穂さんが新幹線に乗るまで送りたいから、エスカレーターを上がって、ホームまで行くことにする。


どうしてと無口になってしまう僕達。

時間が容赦なく過ぎていく。

何度も手を握りしめ合う。


ホームの柱の陰。


「また逢いに来るからね」

僕がいうと

詩穂さんは潤んだ瞳で、コクンと頷いた。


その顔を見ていたら、僕は堪らなくなって、

詩穂さんの手をとって手の甲にキスした。

恥ずかしいとかなんとか全部吹っ飛んでいた。

そうして、

「愛してるよ」

って囁いた。


詩穂さんが頷いて、

泣きそうな顔して、でも笑おうとしてて

「わたしも……」

って言ってくれた。


新幹線がホームに入ってくる。


最後に繋いてた手をギュッとしてから

詩穂さんが1番最後に乗車口から乗り込んで行く。


「またね」

僕が言って

「うん、またね」

って、詩穂さんも笑顔で言った。


この女性ひとはいつだって、こんな風にいじらしくて。だから僕は……。


ドアが閉まる

列車がゆっくり動き出す。

詩穂さんが遠ざかっていく。


僕は見えなくなるまで、その姿を目で追っていた。


そして、こうして

僕達の初めてのデートは終わった。

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