第27話◇ 詩穂の日記◇13頁目

〇月✕日 2日目、そしてまたね


ホテルをチェックアウトしたのは結局、11時半を少し過ぎた頃。


着替えて、髪を梳かして、お化粧直しを軽くしてから、部屋でスマホで写真を撮った。

恥ずかしいけど寄り添った写真を、慶ちゃんのスマホとわたしのスマホで一枚ずつ。

後で送りあおうねって。

寂しくないように。


部屋を出る直前、慶ちゃんがギュッとハグしてくれた。そうして、最後にキス。

目と目が合う。

泣きそうになってしまったけど我慢。


それに新幹線は17時だから、まだ時間がある。せっかくの楽しい時間を涙で曇らせたくないものね。


チェックアウトを済ませて、駅へ向かう。

とりあえず荷物を、またコインロッカーに預けて身軽になる。


それから昨日まわっていなかった駅前にある新刊専門の大きな本屋さんへ。

昨日の本屋さんと違って、中古本はないけれど、その変わり幅広く専門的な本も揃っていて見応えがある。


ついつい夢中であれこれ見ていたら、13時過ぎていたので、昼食のために本屋さんから外に出る。


自然に手を繋いて歩くわたし達。

こうして逢うまで無かった手の温もりに慣れてしまってることに気がつく。あと数時間したら、この手はもう離さなきゃいけない。次にだってそうそうは逢えないのに。


ダメダメ!下向きになりそうな顔を上げる。一緒にいる、この時を楽しもう。笑って。


「お昼は何食べようか?」

明るく聞いてみる。


「そうだねぇ、何にしようか。パスタランチの美味しそうなお店があるみたいだから、そこにしようか?」


ネット情報だと、そのイタリアンレストランのランチメニューは本日のパスタとサラダとスープ付きで美味しそう。

「うんうん!いいね!そこにしようよ!」


二人とも麺類好きだから、すぐに決定!


本日のランチメニューはモッチェレラチーズのトマトソースパスタだった。


お店はちょうど一組お客さんが出てきた所で、わたし達は運良く待たずに席に着けた。


「シンプルだけど、美味しいね!」

と慶ちゃん。

わたしも大満足で、うんうんと頷く。


今回のわたし達は、下調べの成果もあってか、食べるものみんな美味しくて。

それは、二人で食べたから余計にだったかもしれないけど。


食べ終わってお店を出たら14時。

今日はどうしても時計が気になってしまう。


昨日は明日があるって思えたけど、今日は反対方向に帰らなきゃいけないから。


あと、3時間……。

意識せずにはいられない。

繋いだ手を離したくなくなる。


駅前ビルの中の雑貨屋さんを覗いてみたり、少し珈琲タイムしていたら、時間は16時。

コインロッカーから荷物を出してから、御手洗に行ったり、新幹線内で飲むお茶を買ったり……。


新幹線はわたしの方が少し先の発車時間になる。

ホームは隣り。

慶ちゃんはわたしが新幹線に乗るまで送りたいからって、エスカレーターを上がって、わたしのホームまで来てくれた。


わたし達は自然と無口になってしまう。

一分一秒が今は愛おしい。

繋いだ手にしがみつくような気持ちになる。


ホームの柱の陰に二人で立って向き合う。


「また逢いに来るからね」

慶ちゃんが言う。

わたしは、コクンと頷く。


不意に慶ちゃんが思い切ったように、

わたしの手をとって手の甲にキスした。

お姫様にするようなキス。

そうして、

「愛してるよ」

って言ってくれた。


わたしはやっぱり頷いて、

泣かないように

「わたしも……」

って言うのが精一杯で。


新幹線がホームに滑り込んできて……。


最後に繋いてた手をギュッとしてから

わたしは1番最後に乗車口から乗り込んだ。


「またね」

慶ちゃんが言って

「うん、またね」

って、わたしも笑顔で言った。


泣き顔のサヨナラはしたくなくて。


ドアが閉まって

静かに列車が動き出す。

ホームの慶ちゃんが遠ざかっていく。



こんな風にして、わたし達の初めてのデートは終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る