第24話◆慶の独白(11)ホテルにて③

目が覚めて、暫く詩穂さんの寝顔を見ていた。

それから、そっと、おでこにキスする。


まだ、時間は午前5時過ぎだ。


無防備な顔をして寝ぼけまなこの詩穂さんって、子供みたいで見飽きない。


ソファに、それぞれの部屋着とパジャマと下着が投げかけてあるのに気がついた様で、目が覚めた詩穂さんは真っ赤になって布団で顔を隠してしまう。


ふふふ、可愛いなぁ、もう!


そして、我にかえったみたいで、

アタフタしながら布団を身体に巻き付け出した。


見たよね?と詩穂さんの目が言ってる。


確かに詩穂さんのお腹には胆嚢炎たんのうえんになって、機能しなくなった胆嚢をとる為にしたという腹腔鏡ふっこうきょう手術の跡がある。

この話は前に聞いていて、全身の状態が悪く高熱を出したり大変だったので、術前に暫く、ドレナージというチューブを挿入して胆汁を排出する治療もしていたという。


おへその下に大きめの傷跡と他に小さい傷跡二つ。

僕からすれば気にする程じゃない、正直、気にも留めなかったけど、そうか、女の人にとっては、やっぱり気になるんだろうな。


気にしなくて大丈夫だよ、と言おうとした時に、詩穂さんが、ポツリと小さな声で、

「お腹タプタプだし」

続けて

「お尻も大きいし、脚太いし」

「ガッカリしちゃった?」

声は消えそうに小さくなり、ちょっと震えている。


ああ、と僕は思った。

詩穂さんは詩穂さんで自分のコンプレックス気にしていたんだね。


馬鹿だなぁとは思わなかった。

だって僕も同じだったんだから。


でもね、詩穂さん、

詩穂さんの生まれたままの姿を見た時、

僕は、なんて綺麗なんだろうと思ったんだよ。


触れた詩穂さんの肌は白くてスベスベしていて、柔らかくて……。

僕が今まで知らなかった優しい温もりがそこにはあって。


項垂うなだれている詩穂さんを、グイッと抱き寄せた。

僕の心臓はやっぱりドキドキしていたけど、それでも、僕はどうしても伝えたかった。


「詩穂さん、白くて柔らかくてすべすべで、すごく綺麗だよ」


詩穂さんのキメの細かな肌、その白い肩に唇を寄せて感触を楽しみながら何度もキスする。


キスする度に詩穂さんが、僅かにピクンとするのがわかる。


詩穂さんが上目遣いで

「ほんとに?」

と聞いてくる。


「ほんとだよ、すごく綺麗だ」


すると

もう一回

「ほんとにほんと?」


「勿論」

真面目な顔をして、詩穂さんの目を見て答える。


何度だって答えるよ。

だって本当のことだもの。


僕の恋人はこんなに素敵なのに、もっと自信をもっていいんだよ。


もう暫く、二人で裸のまま寄り添ってベットの中にいよう。


「しあわせ」

って、詩穂さんが言うから


先を越されちゃったけど

「僕も」

って、答える。


「愛してる」

自然に言葉が出てきた。


詩穂さんは大きく目をみはって、

それから急に背中を見せた。

涙が溢れてくるのを隠すように。

声はしなかった。


僕はそっと詩穂さんを、こちらに向かせて

胸に抱き寄せてから

「大丈夫」

っていいながら、髪を撫でた。

繰り返し、繰り返し。


目を赤くした詩穂さんは安心したみたいに僕に抱きついたまま、また、少しウトウトしているようだった。


僕は腕の中の壊れてしまいそうな、このひとを、大切にして一緒に生きていきたい。


そう誓うように、思っていた。

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