第22話◆慶の独白(10)ホテルにて②

柔らかな唇からそっと離れて、詩穂さんを見つめた。


そうして、僕は詩穂さんに

「いい?」

と聞いた。

自分の声がかすれているのがわかった。


詩穂さんが恥ずかしそうにうなずく。


部屋の照明を落としてから、手を繋いでベットに。


横になってから、もう一度、ゆっくり唇を合わせる。


詩穂さんの部屋着のボタンを、ひとつずつ外していくけど、手が震えて、なかなか上手く外れない。

男として……とかそういうものは全部、頭からぶっ飛んでいた。


詩穂さんの手が、そっと僕のパジャマのボタンにかかったのがわかった。

その時に僕は思い出してしまった。

『何、その毛むくじゃら、キモチワルイ!』

ビクッとしたのが伝わったんだろう、詩穂さんが手を引っ込める。


戸惑っているのがわかった。


僕は身体を離すと、ベットに正座した。

びっくりしたように詩穂さんも前に正座している。


僕は、ものすごく思い詰めたような顔をしていたかもしれない。

でも、やっぱり言っておかなくては。

「ビックリさせるといけないから言うけど、僕は凄く毛深いんだ」

思い切って言った。


「毛深いって?そんな……」

言いかけた詩穂さんに被せるように


「ほんとに半端なく毛深いんだよ。それで女の子に気持ち悪いってフラレたこともある」

一気に話した。


これは僕の賭けであり精一杯の気持ちだった。

もしも、これで少しでも迷う素振りを見せられたら、絶対に、それ以上の無理強いはしない。

ダブルベットを譲って僕はソファで寝るし、それでも詩穂さんが不安な様なら、僕が朝まで外で時間を潰せばいい。

そんな覚悟を密かにしていると、


「大丈夫だよ。わたしは毛深いってむしろ男性的で好みだなぁ」

詩穂さんの声がした。


本当に?

実際に見ても、そう言ってくれるだろうか。


僕は決心して自分でパジャマのボタンを外して上半身裸になった。


目を瞑ってしまいたくなるのを必死でこらえる。


詩穂さんがニコッと笑った。


「大丈夫だよ。言ったでしょ。わたしは毛深いひと好きなんだって。魅力が増したくらいだよ」


そうして、僕にギュッと抱きついた。


ガチガチに緊張していた気持ちがほどけていくのがわかった。


僕は詩穂さんを思い切り抱きしめた。


嬉しかったよ。

本当は、ほんの一瞬、詩穂さんが驚いたのがわかったんだ。

でも、彼女はひいたりしなかった。

僕の腕の中に飛び込んできてくれた。


腕の中の彼女の身体は、とても柔らかくて、髪からはかすかにシャンプーの甘い香りがした。


愛しさが溢れて僕を満たしていた。

それはとても安心できて癒される感覚だった。


ああ、詩穂さんが、すごく好きだ。

改めて、そう思った。



それから、

僕たちは、

今までよりも、ずっとずっと、


仲良くなった。

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