第21話◇ 詩穂の日記◇10頁目
〇月✕日 ホテルにて②
どれくらい経ったのか、そっと唇が離れて、目を開くと、ものすごく緊張してる慶ちゃんの顔。
わたしも緊張してるけど、不思議にそんなところはちゃんと見れてたりする。
慶ちゃんは決心したように
「いい?」
と短く聞いた。
このひとのもの慣れない、こういう不器用さにも、わたしは惹かれたのかもしれない。
部屋の照明を落として、手を繋いでベットに。
横になってから、もう一度、唇を合わせる。
慶ちゃんの手が、わたしの部屋着のボタンにかかって、ひとつずつ外していく。
震えている手は、なかなかスムーズにいかない。
わたしも、そっと慶ちゃんのパジャマのボタンを外そうと手を伸ばした。
と、慶ちゃんが、ビクッとしたのがわかったので、わたしは思わず手を引っ込める。
馴れ馴れしいと思われたんだろうか。
慶ちゃんは身体を離すと、ベットに正座した。
何事だろうと、わたしも前に正座する。
慶ちゃんは思い詰めたような顔をして
「ビックリさせるといけないから言うけど、僕は凄く毛深いんだ」
「毛深いって?そんな……」
って言いかけたわたしに
「ほんとに半端なく毛深いんだよ。それで女の子に気持ち悪いってフラレたこともある」
一気に言った。
そんなコンプレックスがあったのか。
このひとの女性に対する、確かめながら手探りで進む感じの意味が少しわかった気がした。
「大丈夫だよ。わたしは毛深いってむしろ男性的で好みだなぁ」
わたしは嘘をついた。
わたしの男性経験は多くないし、そんなに毛深いと意識させる人はいなかった。
外見的好みだけでいえば、いかにも男臭いタイプは苦手だ。
でも、
でもね、
この目の前で正座して、多分一番触れられたくないトラウマを口にしてまで、誠意を見せてくれているひと。
その気持ちが堪らなく愛おしく思えた。
慶ちゃんは思い切る様に自分でパジャマのボタンを外して上半身裸になった。
確かに……正直見たことないくらい毛深かった。胸毛はお腹まで繋がっているし、背中も腕も、意識して見ていなかったけど、指にも。女の子がひいたというのも、わからなくもないくらいだった。
それで長袖だったんだね。
わたしはニコッと笑った。
「大丈夫だよ。言ったでしょ。わたしは毛深いひと好きなんだって。魅力が増したくらいだよ」
そうして、慶ちゃんにギュッと抱きついた。
慶ちゃんの緊張が解けたみたいだった。
慶ちゃんも、わたしをギュッと抱きしめてくれた。
どんなに不安だったろう。
どんなに傷ついてきたのだろう。
この優しい柔らかな心をもったひとは。
抱きついた慶ちゃんの身体は温かくて、そっと撫でた胸毛はサラサラしていた。
それはとても気持ちよくて、安心できるものだった。
ああ、このひとのことが、すごく好きだ。
改めて、そう思った。
それから、
わたしたちは、
今までよりも、もっともっと、
仲良くなった。
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