第19話◇ 詩穂の日記◇9頁目

〇月✕日 ホテルにて①


ホテルの部屋に戻ってきたわたし達。

わたしは持参した持病の薬を忘れず飲んだり、荷物を整理したり。


お互いに一通り終わってから、ふぅ……とソファに座る。

さすがに色々歩いたりしたので、髪も身体も汗ばんで気持ち悪い。


そう思っていたらタイミング良く慶ちゃんが

「良ければ先にシャワーして汗を流してサッパリしてきたら?」

と、言ってくれた。


申し訳ないけれど、お先にシャワーする事に。

着替えを持ってから、行こうとすると、

「ゆっくりで大丈夫だからね」

と声をかけてくれる。


有難い。お言葉に甘えて、だけど、慶ちゃんだって汗かいて気持ち悪いはずだもの。

そこは気をつけて手早くしよう。


全身を洗うと思わず、ふぅーと声が出るほど気持ちいい。髪もスッキリ!慣れないお化粧もとれて顔もサッパリ!


シャワーを出てバスタオルで拭きながら、我が身体を見る。見たくないけど、横目で見てしまう。

色白ではある。胸はそれなりに。

ああ、問題はこのお腹の脂肪。大きなお尻。

大根足……昔から顔に出にくく、比較的着痩せする分、この下半身問題?はコンプレックスだったんだ。

馬鹿だなぁ、そんな事を今更。

溜息、ひとつ。


髪をタオルでしっかり拭いてから、くしを通す。

化粧水と乳液にクリームをたっぷりとつける。

さすがにこの歳になると乾燥はお肌の敵だから、安物でも惜しげも無く?(ネット情報により)これだけは心がけている。


ドライヤーをかける。ショートなので乾くのは早い。

持ってきた綿のパジャマ(一応、部屋着風)を着てから、再度、鏡を見る。


まぁ、シミそばかすがハッキリわかるようになったくらいで(涙)そんなに印象は変わらない。途中からお化粧剥げかかってたし(トホホ)

あ、歯も磨いておこう。マウスウオッシュも。

こんなもんだ。見栄張っても仕方ない。

自分に言い聞かせる。


それより、時間がかかりすぎてなかっただろうか。

洗面所から出て急いで慶ちゃんに声を掛ける。

「シャワーお先にありがとう。遅くなってごめんね」


ソファでテレビを見ていた慶ちゃんが笑顔でうんうんと頷く。

「大丈夫だよ。早かったけど、急がせちゃったんじゃない?」


「ううん、慶ちゃんも良かったらシャワーどうぞ。汗かいただろうし」


「うん、ありがとう。じゃあ僕もシャワーしてくるね」

着替えをもって慶ちゃんもシャワーへ向かう。


わたしはソファに座ってテレビを見

るともなしに見ていた。


何だか不思議だなぁと思った。

初めての場所、初めてのホテル。

勿論、緊張もドキドキもしているけど、同時に安心感がある。

慶ちゃんがいてくれるから、かなぁ。


そんな事を考えてると、慶ちゃんがパジャマを着てバスルームから出てきた。


「スッキリしたぁー!」

ふふふ、パジャマ姿、何だかクマさん感が増して可愛いなぁ(と、これは心の中で)


並んでソファに座る。

今日は楽しかったねぇと本屋さんで見つけた本や初めて行った模型屋さんの話をしたり、美味しかったレストラン、また次に来たら何を食べようかとか、話は弾む。


そうして、瞬間、会話が途切れた。


目と目が合って、急にわたしは物凄く恥ずかしくなる。


慶ちゃんが緊張した顔をして、

「キスしてもいい?」

と聞いてきた。


コクリと頷くわたし。


温かなサラッとした手が優しく頬に添えられて、真っ赤な顔が近づいてくる。

自分の心臓の音がドキンドキンとわかるくらいになって、わたしは思わず目を瞑る。


キスってどうするんだっけ、なんてオンナノコみたいなことを考えながら。

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