第14話◆慶の独白(6)初めてのデート(午後)

荷物を駅のコインロッカーへ預けると一気に身軽になる。


ホテルのチェックインは15時。

でも電話しておいたから、少し遅くなっても大丈夫だ。


「まずは、ひと息ついて、珈琲でも飲もうか?」って詩穂さんに提案して喫茶店へ。


そうだ、その前にトイレ休憩も。


詩穂さんって、見てると、かなり気遣いする人なんだ。

言い出せないといけないから。

気の利いた事は言えないけど、僕といる時ぐらいはリラックスさせてあげたい。


詩穂さんのホッとした顔を見て、やっぱり聞いておいて良かったって思った。


お互いにトイレに行ってきてから(僕も顔を洗ってサッパリできた)駅ビル内の喫茶店へ。

珈琲のいい香りがする。

席も……良かった!空いてそうだ。


『禁煙席と喫煙席どちらに?』と聞かれたから迷わず、「禁煙席に」と答えた。

詩穂さん、煙草苦手だもんね。

このくらいの我慢はなんでもない。


空いていた端っこのテーブルに向かい合って座る。

迷ったけど汗を引かせたかったしアイスコーヒーを注文。詩穂さんも同じもの。


後から、ラーメン屋さんに行くから、ここでは珈琲だけにした。


新幹線、人多かった?とか、前の晩、実は緊張してなかなか眠れなかったとか、たわいない会話なんだけど、心が弾む。


ふと、会話が止まると、目が合ったりして、詩穂さんはニコッと笑ってくれる。その顔を見ると僕の頬も自然に緩んでくる。


アイスコーヒーが来てから、今日、どんな風にまわろうかとか話し合う。詩穂さんもきちんと希望を言ってくれるから助かる。

どっちでもいいって言われるのは、ちょっと苦手だから。


詩穂さんは、僕の提案に、うんうん、と、まずじっくり耳を傾けてから、その後、自分の希望、意見を、ちゃんと言ってくれる。

こういう、しっかり自分があるとこも好感が持てる。


ついつい、時間を忘れそうになったけど、昼食に行こう!って事で喫茶店を出る。


僕が会計をしたんだけど、

お店を出てから詩穂さんは

「ごちそうさまでした」

と軽く一礼して言った。


女性とあまり付き合ったことの無い僕。

実は以前、男が支払うのは当然、っていう女の子とお茶したことがあって、別にいいけど何だかなぁと寂しくなったのだった。


ごちそうさまって一言で、こんなに気持ちがいいものなんだなぁ。


駅ビルを出て、駅前から目的地に行く為のバスに乗る。

3停留所ほど乗ると、目的のラーメン屋さんがある繁華街に着く。


まずは腹ごしらえ。

二人ともラーメン好きで、このお店は、ネットで調べて、すごく楽しみにしていた。


ここは、あっさり魚介醤油味で、好みど真ん中だった。

汗をかきかき食べるラーメンは最高に美味しかった!


そして、詩穂さんの食べっぷりが、また、気持ちいいんだ。


手を合わせて

「いただきます」と小さな声で言ってから、

愛おしむ様に何とも美味しそうに食べる。

食べるのが好きなのが伝わってきて、こっちまで、食欲が増してくる(笑)


お店を出てから、汗を引かすのも兼ねて、暫く風に吹かれながら歩く。


並んで歩きながら……僕は、手を繋ぎたい、と思っていた。

自然に、何気なく、だ。

しかし、イザとなるとこれが難しい。


いい歳のオッサンが中学生みたいで何やってんだと思うけど、手に汗かいてきたマズイ。

ハンカチで何気なく拭いて仕切り直す。


歩きながら何気なく手を伸ばして……

そっと、彼女の手を、握った。


ふっくら柔らかくて優しい手だった。


ぴくっとしたのがわかって、ドキドキしたけど、彼女はゆっくり手を握り返してくれた。

目が合った。

色白の彼女の顔が真っ赤になっていて、汗でお化粧が落ちたせいか、ソバカスが浮いて見えた。

それでもニコッと笑ってくれた顔は少女みたいで、僕はなんてキレイなんだろうって思った。


そのまま、手を繋いで歩いた。

たまらなく愛しくて……幸せだった。

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