第13話◇ 詩穂の日記◇6頁目
〇月✕日 初めてのデート(午後)
駅のコインロッカーに荷物を預けると、身が軽くなってホッとする。
慶ちゃんが、
「まずは、ひと息ついて、珈琲でも飲もうか?」って提案してくれたので、喫茶店へ。
そうそう、その前にそっと、
「僕は汗ばんだ顔洗ってきたいんだけど、御手洗とか詩穂さんは大丈夫?」
って聞いてくれたのは助かった。
わたしも髪の乱れだの、慣れないお化粧が見苦しくなってないかとか、見ておきたかったから。トイレ自体行っておくにこしたことないし。
こういう何気ない気遣いは嬉しいよ。
お互いに御手洗に行ってきてから、駅ビル内の喫茶店へ。
珈琲のいい香りが漂ってくる。
『禁煙席と喫煙席どちらに?』と聞かれた時も、迷わず、「禁煙席に」と答えてくれて、自然に相手を思いやれるって、素敵な事だと思う。
端っこのテーブルに向かい合って座る。
慶ちゃんもわたしもアイスコーヒーを注文。
新幹線、人多くなかった?とか、前の晩、実は緊張して眠れなかったとか、お互いそんな話をしながら……。
でも不思議に沈黙が怖くない。
ふと、会話が止まっても気まずくないし、顔を見合わせてニッコリしちゃう。
アイスコーヒーが来てからも、今日、どんな風に今からまわろうかとか、慶ちゃんが色々提案してくれて、わたしもそれにあれこれと希望を言ったり。
ついつい、時間を忘れそうになり、昼食に行こう!って事で喫茶店を出る。
会計は慶ちゃんがしてくれた。
お店を出てから「ごちそうさまでした」
親しき仲でも、こういうのは、ちゃんと言いたい。
堅苦しく考えるというのじゃないけど、タイミングをみて、わたしも支払いを持っようにしよう。
どちらかが一方的に負担するのじゃ長続きしないもの。
駅ビルを出て、駅前から目的地に行く為のバスに乗る。
3停留所ほど乗ると、本屋さんや雑貨屋さん、目的のラーメン屋さんなんかがある繁華街に着く。
観光地でもなんでもないけど、来たことのない街というのは、何もかもが物珍しく新鮮だ。
お天気も、薄曇りくらいだけど、雨にはなりそうにない感じで有難い。
お目当てのラーメン屋さんはあっさり魚介醤油味で、すごく好みだった。
汗をかきかき、美味しいねー!と今日ばかりは汁まで飲み干す。
お店を出てから、汗を引かすのも兼ねて、暫く風に吹かれながら歩く。
並んで歩きながら……指先がちょっと触れて、ドキッとする。
若いお嬢さんでもあるまいに、と心で苦笑いしてたら……手をそっと握られて、心臓が飛び出しそうになった。
わーわーわーどうしよう、心臓ドキドキが止まらないよ。
でも……ああ、あったかなサラサラした手だなぁ。すごく安心する。
手を握り返して、思い切って顔を見たら、耳まで真っ赤になってる慶ちゃんと目が合った。
多分、わたしの顔も同じくらい真っ赤だろう。
他人から見れば、冴えないどこにでもいる、オジサンとオバサンにすぎない、わたし達。
だけど、そんなこと、どうでも良かった。
いい歳して、なんて言葉も行方不明にする事にした。
人前だけど手ぐらい繋いだっていいよね。
こうして、この人と手を繋いで歩いている今が、たまらなく愛おしくて幸せだと思った。
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