第12話◆慶の独白(5)初めてのデート(午前)
駅に着いて、詩穂さんからのメールを受け取る。
無事に予定通りの列車に乗ったみたいだ。
僕も予定通りの列車に乗り込み、メール返信をする。
ふう、ここまでは順調だ。
到着時刻は詩穂さんの方が先になる。
15分ぐらいだけど、待たせてしまう事になって申し訳ないけど。
座席に座って既にコメカミから流れてきている汗をタオルハンカチで拭う。
新幹線も久しぶりだ。
この前に乗ったのは、あの家族旅行の時で、元々、自営の僕らは、あまり長期の旅行はしたことが無い。
それでも親父が生きていた頃は、親戚達と近場に行く機会もあったけれど、親父が亡くなってからは、それもめっきり無くなった。
この前の旅行は、だから良い機会でもあったと思っている。
母は何のかんのと言いつつ、僕が付き合っている相手がどんな人かと心配だったようだし。
だから旅行を兼ねて会わせる事で、本人と話せて凄く安心したみたい。
自信はあったんだけどね。
ずっと友人としても、惹かれだしてからは尚更、深い話もしてきて、この
優しくてちゃんと人を思い遣れて……控えめだけど、芯が強くて……それなのに、セッカチでドジなとこがあって……。
ふふふっと僕は思わず笑ってしまって、慌てて周りを見回した。
横の座席にまだ人が乗ってない時で良かったよ。
座席といえば、僕は二人がけの窓際に座っている。
通路側だと、人が前を通るごとに落ち着かなくて……。
これを詩穂さんに話したら、
「わたしは反対に通路側じゃないと。人の前を通るのは緊張して落ち着かなくて……」と言っていた。
二人で笑った。こういう違いも面白いな。
汗もひいたので、ペットボトルのお茶を一口飲んでから、ナップサックから本を出して読み始める。
けど、うーん、やっぱり頭に入ってこない。
本を読むのを諦めて、外の景色を見るともなくみる。
気づくと詩穂さんの事を考えている自分がいる。
ちょっとウトウトしたかなって思ったら、列車は約束の駅の一つ前だった。
忘れ物がないようにとペットボトルを仕舞ったりして、荷物を確認。
待ち合わせは新幹線改札口の前だったよな。
彼女ももうすぐ着く頃だ。
何ヶ所かあるから、降りたらすぐに電話して確認しなきゃ。彼女、方向音痴だって言ってたから心配だ。
そんなことを考えているうちに列車はホームに滑り込む。
三番目に僕は列車からホームに降りた。
ちょっと逢った時のことシュミレーションしたりして考えごとしていた。
その時に
「慶ちゃん!」
彼女の声がした。
え、ええええええ!!!!!
なんでなんでなんで!
待ち合わせは改札口前だったよね?
僕の心臓はバクバクいってて、一瞬固まってしまった。
ホームまで来てくれたんだ!
そういえば、何号車?とか聞かれたけど、それでかぁ~!
自然と笑顔になる。
「詩穂さん、ホームまで来てくれたの?」
「うん、驚かせようと思って」
彼女がニコニコしながら答える。
ちょっとイタズラっ子みたいな表情。
こういうところが堪らなく可愛いと思う。
僕達の時間が繋がった瞬間。
『やっと逢えたね』
声に出さなくても二人ともそう思ってた。
そうして肩を並べて、僕達は歩き出した。
時間はお昼少し前。
とりあえず、先ずは駅のコインロッカーに荷物を預けてからだな。
それから、彼女とゆっくり珈琲タイム。
トイレ休憩も女性からは言い出しにくいだろうから、そこは気をつけて。
予約しているホテルのチェックイン時間は15時だから、それまでは調べてたラーメン屋さんで昼食にしようか。
何気なく彼女を横目で見る。
今日は白いブラウスに薄手のカーディガン、スカート。
あんまり女性の服装には詳しくない僕だけど、それは彼女にとても良く似合っていた。
目が合った彼女がニコッと笑う。
ああ、この柔らかな笑顔が堪らなく好きだ。
僕達のデートはこんな風に始まった。
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