第11話 ◇ 詩穂の日記◇5頁目

〇月✕日 初めてのデート(午前)


新幹線に乗るのも、どれくらいぶりだろう。

予定通りの列車に乗り込み、到着時刻を慶ちゃんにメール。

返信で彼も無事に予定の列車に乗り込んだとのこと。ホッとする。


到着時刻は15分差くらいで、わたしの方が早く着くことになりそうだ。


実は二人の住む場所の真ん中の街といっても、逢う予定の街は少しわたし寄りになるのだ。


だから、彼の方が早い新幹線に乗っても、着くのは遅い時間に乗ったわたしの方が先になる。



ものすごく久しぶりの新幹線。

わたしは用事で立ったり、降りる時に横に座った人の前を通るのに気を遣うし、苦手なので、いつも二人がけ通路側の席に座る。


今回は空いていて、横に座る人が居なくて、ホッとする。

それでなくても緊張していて落ち着かないのだもの。

本を取り出して読むけれど、全然頭に入ってこない。結局、本を仕舞ってから、イヤホンで音楽を聴く。


聴いているうちに、いつの間にかウトウトしていたらしい。

気がつくと降りる駅の1つ前で、一瞬ドキッとした。

良かった〜!

寝過ごして乗り過ごしちゃったら大変だった。一応、到着時刻10分前にバイブ機能でアラームをかけてはいたんだけど、寝込んで気づかなかったら大変だもんね。



そうこうしているうちに、列車は待ち合わせ駅に着いた。忘れ物がないか確認してから降り口のドアの前に。

ドアが空いて、わたしは初めての駅に降り立つ。ドキドキは最高潮になる。

コラコラ、まだ早いって!


待ち合わせは新幹線の改札口だけど、実はわたしは密かに不意打ちを考えてた。

慶ちゃんの乗ってくる列車と号車番号は聞いてるから、ホームまで行って出てくる慶ちゃんを迎えようというドッキリ!


実はわたしは、こういうイタズラ?が結構好きなのだ。


早足で階段を下りて、また彼の到着ホームへの階段を上る。

乗っている号車番号の前のホームで到着を待っていると、彼を乗せた新幹線がホームに滑り込んできた。


ドアがゆっくりと開いて、人が降りてくる。

一人目、二人目……三人目、彼だ!

慶ちゃんは、まさかわたしがホームまで来ているとは思ってないようで、ひどく真面目くさった顔をして降りてきた。

Tシャツの上に袖をまくったチェックのシャツを羽織ってジーンズ。黒いスニーカー。ナップサック持ってる。ふふふ。


まだ、わたしには気がついてないみたい。

そーっと近づいて、

「慶ちゃん!」

と声をかけたら、すっごく驚いた顔をして、少し固まってから、ニコッと笑った。

ああ、この笑顔が好きなんだなぁ。

すごく優しい顔をして笑うの。


「詩穂さん、ホームまで来てくれたの?」

慶ちゃんが嬉しそうに言う。


「うん、驚かせようと思って」

わたしもニコニコしながら答える。


わたし達の時間が繋がった瞬間。

『やっと逢えたね』

声に出さなくても二人ともそう思ってた。


そうして肩を並べて、わたし達は歩き出した。


時間はお昼少し前。

とりあえず、先ずは駅のコインロッカーに荷物を預けることにする。これで随分、身軽になるね。

それから、ひと息、珈琲タイムでも。


予約しているホテルのチェックイン時間は15時だから、それまでは昼食を食べたり、街を見て回ったりしようね。

本屋さんも雑貨屋さん、慶ちゃんの好きな模型屋さんも勿論ね!


こんなワクワクした気分、久しぶり!

自然に笑顔が溢れてくる。


わたし達のデートはこんな風に始まった。

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