第10話◆慶の独白(4)初めてのデート(朝)

朝、詩穂さんに、おはようメールをした後もメールのやり取りをしながら、荷物の確認をもう一度する。

緊張しているせいかな。キリがないや。


後はヒゲを剃ったり、歯を念入りに磨いたり、爪が伸びてないかも確認。

詩穂さんは爪が伸びている人は苦手っていってたから。

元々、僕は仕事柄、短く切ってるから、これは問題ないんだけどね。


無地の半袖Tシャツの上にチェックの長袖シャツを着て、少しだけ腕まくりする。

下はジーンズ。ゴツめの黒のスニーカーを履いて完成。

大きめのナップサックに着替えやタオルハンカチを何枚か。それに扇子。


僕は汗かきだ。緊張してもだし、熱いものを食べたりしても汗がダラダラ流れてくる。だから扇子をいつも持ってる。これで風を送ってしのぐ。制汗剤も勿論、必需品だけど、見苦しく見えるだろうと気になる。


そして実は僕は毛深い。腕や脚は勿論、胸毛に背中や指先まで。

これも僕のコンプレックスのひとつ。

それに背も高くない165ギリギリってとこかな。太ってはいないけど、ずんぐりむっくりしてる。


変に卑屈には、なっていないつもりだけど、客観的に見て、イマドキの男ではないし、モテるタイプでないのは確かだろうなぁ。


前回、逢った時は家族ぐるみだったし、長時間ってほどではなかったから、僕の汗かきとか毛深さとかは、そんなに目立たなかったんじゃないか、と思う。そうだと思いたい。

でも今回は1泊2日……詩穂さんは、どう思うんだろう。引かれると落ち込むな、さすがに。


毛深いのが生理的にダメって女性ひとは最近多いみたいだ。

もし、詩穂さんがそうなら、それは仕方ない。

その時は潔く、良き遠方の友人に戻ろうぜ、オレよ。


あ~出掛ける今になって、何でこんなこと考え出すかなぁ。

せっかく好きな人と逢えるという、その日なんだから、胸張って行こう。うん。


「今から家を出て、駅に向かうね」

詩穂さんにメールをする。


すぐに返信があって

「わたしも今から家を出るとこだよ」

うんうん、予定通りだ。


頭の中で今日一日の行動予定をもう一度、シュミレーションする。

彼女を疲れさせないように、体調を一番に考えて、こまめに休憩を取ること。

水分補給も忘れずにしなきゃな。

美味しいラーメン屋さんの店も調べてあるし、甘味処も。

それから二人とも大好きな本屋巡りも楽しみだ。雑貨屋や意外にも彼女も興味を示してくれたから、模型屋にも行く予定だし。


思えばデートなんて、どれだけぶりだろう。

昔すぎて、こんなドキドキする気持ち、忘れてたよ。


「いってきます!」


玄関から声をかけると、

「いってらっしゃい!詩穂さんによろしくね!」という妹の声と

「気をつけて!」

という母の声が聞こえた。


ゴールデンレトリバーの愛犬” こむぎ ”が、クゥーンと鳴いて尻尾を振った。

その頭を撫でて、もう一度、

「いってきます!」

と言ってから、靴を履いて、


僕は玄関ドアを開けた。

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