第8話 ◆慶の独白(3)カウントダウン

当たり前といえば当たり前で、一度、実際に逢えば、また逢いたくなる。

今度は二人きりで、ゆっくりと逢いたい。


詩穂さんも同じ様に思ってくれたようで、僕らは”逢う”ことについて、色々話し合った。


「この先も無理なく付き合っていく為にも、どちらかに負担が大きくなるような事はしたくないの」

と、詩穂さんは言ってくれた。


僕は小さな町工場のオヤジに過ぎない。

仕事には誇りを持っているつもりだけど、余裕のある裕福な生活とはいい難い。

もっと財力があったら……そう思わずにはいられなかった。


でも詩穂さんは、

「慶ちゃんの仕事は、無くてはならない仕事だと思うよ。一本のネジでも無かったら、その機械は動かないでしょう?派手な仕事ではないかもしれないけど、とても大切なお仕事だし、そんな仕事をしている慶ちゃんを、わたしは尊敬してるよ」

そう言ってくれたんだ。


嬉しかった。

こんな風に僕を見てくれる女性ひとは初めてだった。


それから僕らは、具体的に二人で逢う為の計画を少しずつ決めていった。


逢うのはお互いの、ちょうど真ん中にある街で。待ち合わせは新幹線駅の改札前。

慣れない所だから、とにかく家を出る時から連絡は密にすること。新幹線を降りたらすぐ連絡し合う。


一泊二日。

泊まるホテルをネットで探して予約し、どんな所を回ろうか、何を食べようかと調べたりするのは楽しかった。


僕は酒が飲めない。

全く飲めないわけじゃないけど、小さな缶チューハイ半分も飲めば眠たくなって寝てしまう。

だから、夕食も居酒屋とかじゃないほうがいい。

幸いにもというか、詩穂さんは飲めるのは飲めるけど、飲まなくても全然平気らしかった。

お互いに食べるのが好きで、それもB級グルメファンだから食べ歩きしても楽しいだろう。


問題は煙草。

詩穂さんは苦手だから、出来るだけ前で吸わずに喫煙所で吸うようにしよう。

部屋では禁煙パイポで頑張ろう。

あまり身体の丈夫ではない彼女の体調を考えて無理のない行程にしなくては。


そして、夜のこと。

やっぱり意識しないわけにはいかなかった。

僕だって、そりゃ男だし。

普通に欲望はあるわけで。

まして、相手は好きな人だし。


でも、無理はしたくないと思ってた。

彼女のことを大事にしたいから。

それに、まだ、手だって握ってないんだからな。

落ち着け落ち着け、オレ。


その日は彼女に逢いに行ってくると母と妹には伝えてある。

僕はこういう時に、嘘をついたりするのが苦手だから、やっぱり、ちゃんと紹介していて良かったと思った。


前回の初顔合わせから約二ヶ月後、前日はさすがに眠れなかったよ。


うとうとしては目を覚まして時間を見る。

結局、一時間以上も前に起きて、荷物の再点検したりして、それから詩穂さんにメールした。

「おはよう!今、起きたよ!」


「おはよう!わたしも起きたとこ」

メールが、すぐに返ってきてホッとする。


そんなふうに、二人きりの初めてのデートの朝は始まったんだ。

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