第7話 ◇ 詩穂の日記◇3頁目
〇月✕日 カウントダウン
二人きりで逢おうってなった時に、まず、どこで?ってことを考えた。
初めての顔合わせでは、たまたま、慶ちゃんの方の家族旅行っていうタイミングがあったから、わたしの方に来てくれたけど、例えば、また、こっちに来てもらうには負担が一方的にかかる。
要するに、どちらかの方に逢いに行くというのは何回かに一度ならともかく、やっぱり厳しい。
それにわたしは経済的負担はできるだけ分け合いたかった。
強がるわけじゃないし、
だから話し合って、普通に逢う時には二人の中間点で逢う事にしようと決めた。
二人とも初めての街。
日帰りだと時間が無いし、そうそう頻繁に逢えるわけでもないから、ネットでホテル検索をして、駅近くのホテルで”のんびりカップルプラン朝食付き”というのを見つけて予約した。一泊二日。
朝食バイキングでなかなか美味しそうだったのと、チェックアウトが比較的遅めの時間でゆっくりできそうなので決めた。
ホテルに泊まるなんて、どのくらいぶりだろう。それも行ったたことの無い街だし。
我ながら結構な大胆さに驚いた。
泊まりで出かけるなんて事自体、無かったから、遠くの街の友人と久しぶりに交流が再開して会いに行ってくる、というわたしに、父は驚いていたけど。
結局、父にはこの交際については話さないことに息子と話して決めていた。
一緒に暮らしたり籍を入れるわけでもない。
再婚の選択肢がないんだから、余計な心配をさせることもないだろうと思ったし、ね。
事情を知っている息子は慶ちゃん家族に一度会っているせいもあって、父を上手く納得させてくれた。
めったに出かける事のないわたしが楽しそうにしているのを喜んでくれて「気にせず、のんびりしておいでよ」と言ってくれたのが何より嬉しかった。
待ち合わせは新幹線駅の改札前。
とにかく新幹線を降りたら連絡し合う。
わたしは方向音痴だから、その方が有難い。
自宅を出る時から行き違いがないように携帯で、こまめに連絡をとりあう様にする。
日にちも決まり、いよいよカウントダウンが始まった。
慶ちゃんは、お酒は体質的に飲めないし(小さい缶チューハイ半分で寝てしまうらしい)ギャンブルの類は一切やらない。曰く、面白さがわからないらしい。
唯一、煙草は吸う。
わたしが煙草が苦手なのは言ってはいたし、健康の為にも、できればやめて欲しいとは思った(これは今でもそう思うよ)
ただ、ストレス発散でもあるみたいだし、吸い方を見ていると、周りへの配慮もあるし、一緒に暮らしている訳でもないから(これはかなり重要)そこは、あまりうるさく言わないようにした。
(でも、身体心配だから本当はやめて欲しいけどね)
それにしても、お泊まり。
数年の付き合いはあるとはいえ、会って二度目にしての、お泊まりデート。
長時間一緒にいることで、初めてわかることもあるだろうし。
この初デートがどうなるかどうかは”神のみぞ知る”
だけどさ、もう若くない、そして今だからこそ、こういう大胆さもいいんじゃないの。
時間が有り余ってる若い時代じゃないんだもん。
そんな不安とドキドキを抱えているうちに、その日はやってきた。
今でも、あの前の晩のことを思い出すよ。
遠足の前の晩は決まって眠れなかったわたしは、その晩も一睡もできずに朝を迎えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます