第6話 ◆慶の独白(2)初めてのデートまで

初めて二人きりで逢うまでにはまだ、確認しておくこととか、決めなきゃいけないことが沢山あった。


僕自身は友人として過ごしてきた日々を通じて詩穂さんの人となりもわかって、そして一人の女性として惹かれていっていた。


多分、僕は変化を好まない慎重派で、だからこんな自分の気持ちにビックリもしていた。

随分、長く話したりしてきたとはいえ、一度も会ったこともない、電話で声を聞いたことしかない女性。

元々、ネットでの現実の出逢いに懐疑的かいぎてきでもあったし。


彼女の状況というか、事情というか、それを打ち明けられた時も正直、驚いた。


画像交換で見た姿はイメージとは少し違っていた。これは良い意味で。

外見的にいえば、髪は肩くらいまであるセミロングかなぁなんて漠然と思っていたけど、ショートヘアだった。

でも、それが似合ってたし、8歳上と聞いていたから、もっと落ち着いた雰囲気を想像していたけど、ほとんど素顔、というか、口紅を薄くつけただけの詩穂さんは、そのせいか色白で少女めいて見えた。


再婚する気は、もう無いことや子供は今いる息子以外に持つつもりはないことについても、実はそんなにショックではなかった。


僕には正直、結婚願望が無い。

パーソナルスペースを広く取りたい方だし、その部分を尊重し合いたい。だから結婚には向いてないんじゃないかとも思う。


かといって、いい加減な付き合いがしたい訳じゃない。

ちゃんとお互いに大切に想って、ずっと一緒に人生を歩いていける恋人が欲しいとは思っていた。


詩穂さんと出逢った頃の僕は37歳になっていて、それなりに結婚や付き合ってる人は?と周りから言われだしていたわけだけど。


僕が詩穂さんに惹かれたのは、まず、趣味や考え方がすごく合うこと。

好きなものと苦手なもの、嫌だと思うことが似ていた。価値観というヤツかな。


そして、彼女には、ちょっと、せっかちでそそっかしい一面があった。

僕は焦らず慎重に進めていく方だから、ここは正反対。だけど、このギャップも面白かった。


人間って似すぎていても息が詰まる気がする。

あれだけ、しっかり者で気遣いができる人が慌てんぼうでドジなところがあるなんて、なんて可愛いんだろうって思ったんだ。


それから僕が彼女を尊敬していることの一つに、目標に向かって努力して挫けず、やり遂げるというところがある。

いや、凹んだり時にはパニックになったりもするようだけれど、彼女は諦めない。


なんていうんだろう、これは恋人同士として逢うようになって改めて感じたことだけど、彼女は色々な顔を持っていて、繊細なのに大胆で、弱いくせにしぶとく、明るくて穏やかだけれど、背負っているものがあって……。


美味しそうに、本当に見ていて幸せになるような顔して食べて、子供みたいに笑って……

泣く時はこっそり泣くようなひとだった。


だから、僕は逢う度に強く惹かれていったんだと思う。


詩穂さんの住む街への旅行の機会は、そんな僕の決心を後押ししてくれた。


母に詩穂さんの事を打ち明けた時も不安は無かった。

会えば、彼女と話せば、きっと大丈夫だという不思議な予感?自信があった。


「そんな遠距離の人で、それも高齢のお父さんと子供さんと同居していて、持病もあるんじゃ、こっちに来てもらうことも叶わないでしょう。これからどうするつもり?」


そう聞かれた時も、だから迷いなく自分の気持ちを答えた。


「親父が死んでからしみじみ思ったんだけど、人はいつどうなるかわからないから後悔したくない。彼女以外の女性と生きていくのは、この先も考えられないから、これからも自分達の一番良い形で付き合っていきたいと思ってる」


結果は思った通り。

母は安心したようだったし、妹はすっかり詩穂さんと趣味友になっていた。

僕も詩穂さんの息子さんの趣味友になった。


こうして僕らはまた一歩進むことができた。

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