第5話 ◇ 詩穂の日記◇2頁目

〇月✕日 初めてのデートまで


そうだ。最初に二人きりで逢うまでの事を書いておこう。


一番最初の初顔合わせは、慶ちゃんが家族旅行でこっちに来る機会で……ということもあり、ある意味、変則的というか、うーん、、でも、あれはあれでちょうどいいきっかけになって良かった。


それこそ、いい歳をした大人同士で、その分、周囲まわりもあるわけで。

若い頃なら、自分の個人問題で済んでいても、さすがにそうはいかない。


とはいえ、わたし自身が8歳上で子供のいる未亡人……この言い方もなんだかなぁだけど。

少なくともかなり……気にはしていた。


顔合わせ前には向こうの御家族は、友人としての交際でも、あんまりいい顔しないだろうなぁとか思って正直、不安だったし。

顔合わせ後でも、あれだけ良い感じで楽しく過ごせても、お付き合いとなれば、また改めて考え直されて反対されちゃうかも、とかの不安は尽きなかった。


卑屈になるつもりはないけど、現実問題として、遠距離、歳上、子供あり、夫と死別って、家族としては、よりによって何でまた……と思われても仕方ないだろう。


わたしは両家顔合わせを言い出した慶ちゃんに、その事を問いただした。

「そういう、わたしの背景をちゃんと話してるの?」


慶ちゃんは

「ちゃんと話したよ」

と言った。


あちらのお母さんからは当然ながら、

「そんな遠距離の人で、それも高齢のお父さんと子供さんと同居していて、持病もあるんじゃ、こっちに来てもらうことも叶わないでしょう。これからどうするつもり?」

と聞かれたそうだ。


そりゃ当然だよ。

わたしも息子を持つ母、気持ちはわかる。


まぁ、わたしの場合はちょっと考え方が変わっているのかもしれない。

息子の結婚にしても子供にしても縁のものだと思うし、幸せの形はそれぞれなので、何も言うつもりはない。

これは今までのわたし自身の生きてきた色々で、形よりも心の充実の方が、よっぽと大切だと思い知っているからかもしれない。

だから息子なりの幸せを見つけてくれるのが一番だ。


でもこれを世間一般のお母さんに当てはめちゃいけないくらいはわかる。


で、お母さんの

「これからどうするつもり?」

の問いかけに慶ちゃんが答えたのは

「親父が死んでからしみじみ思ったんだけど、人はいつどうなるかわからないから後悔したくない。彼女以外の女性と生きていくのは、この先も考えられないから、これからも自分達の一番良い形で付き合っていきたいと思ってる」

だったらしい。


ちょっと見直した、というか、こうもハッキリとお母さんに気持ちを伝えてくれているとは、意外だった。


そう言えば恋人同士として付き合う前にと、わたしは、慶ちゃんに自分の考えや現状を話した。


わたしはもうこの先、再婚する気は無いこと。

持病があり、薬や通院が欠かせないこと。

年齢的なものもあるが、子供を授かることもないだろうし望んでもいないので、わたしと、この先付き合いを続けても、形としての結婚や我が子をというゴールはないこと。


この事を伝えるのには勇気が言った。

半分はこれでダメになっても仕方ないと覚悟もした。

だって、後になってから、こんなはずじゃなかったと言われる方が傷は深くなる。

どうせなら、さらけ出して、それでやっぱりダメだと言われたらサヨナラだと思っていた。


これは友人として付き合ってきた2年間を通じて慶ちゃんの人柄を知ってきたわたしの賭けでもあったと思う。


相手は結婚したことの無い歳下の男性で、これからの可能性も秘めている。

それをわたしとの付き合いで潰すことになりはしないか?

変に慎重で生真面目すぎるかもしれない考え

?いや、わたしの自己保身か。


多分、わたしは怖かったんだ。

恋愛経験豊富とはいえないわたしだから尚更、もう、色々なことで傷つくのが嫌だった。


完全な”恋愛ヘタレ”だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る