第2話 ♢ 詩穂と慶②

 詩穂と慶が初めて会うことになったのは、慶が連休の家族旅行で九州に来ることになったからだった。


 免許証の写真を見せてくれたし、電話はいつかけてくれても構わないとは言われていたけれど、それでもまだ、完全に既婚者疑惑を捨てているわけではない詩穂だった。


 何しろ出会いはネットだ。

 若い娘さんならまだしも、さすがに詩穂の歳だと慎重にもなる。


 妹さんって言っているけど、奥さんなんじゃないの?

 そんな事を冗談めかして言ったりもして、

「詩穂さん、まだ、疑ってるの?」

 と慶から呆れられたりもしていたけど。


 そんな時に、慶から来月、家族で九州に旅行に来るという電話を受けたのだ。


 もし良かったら、家族にも紹介したいし(勿論、友人としてだろうと詩穂は思った)時間があれば、街を案内して貰えるなら、とても有難いのだけど……とのこと。


 どうしよう……と思ったけれど、なかなか無い機会だし……。

 詩穂は息子に相談してみた。


 頑固で昔気質の父にはどうにも話しづらくて黙っていたのだけど、息子には昔から、できるだけ変な隠し立てはしないようにしてきていたから。

 慶とネットでの交流が始まってからは、ある程度は打ち明けて。


 最初こそ懸念していた息子も時々、電話を代わって慶と話すようになると、この交際を喜んでくれるようになっていた。


 そして、それならと、息子もその日に同行してくれることになった。


 慶の方も異存はなく、こうして初顔合わせが実現したのだ。


 §


 結果から言えば顔合わせは、とても和気あいあいとしたものになった。


 慶のお母さんはおっとりとしたよく笑う人で、妹さんもお母さんに似て笑顔が可愛い。


 初めて実際に会った慶は、やっぱりプーさんみたいで、ちょっとずんぐりむっくりしていた。若い頃なら外見は好みのタイプではなかったかもしれない。

 でも、歳を重ねた今は穏やかそうな雰囲気や笑い顔の優しさが素敵だなと思った。

 きちんと気遣いのできる大人の男性だった。


 詩穂は食事の時、食べ方の汚い人はどうにも苦手なのだけど、そこもキチンとしていて、健啖家で、美味しく食事ができた。


 ああ、きちんと育てられて来た人なんだなということが良くわかった。


 そしてそして、これはまた、嬉しい事だったのだけど、妹さんも同じく趣味が読書だったのだ。

 それも、慶の守備範囲とは別のエッセイやファンタジー系、これも詩穂の好きな分野だ。


 息子と慶は同じ模型の趣味で盛り上がっていた。プラモのアレコレについて熱く語っている。


 おかげで詩穂も息子も新しい友人を増やすことができた。


 それから……ビックリしたのは、慶が詩穂のことを友人としてではなくて、お付き合いをさせてもらっている女性として、紹介してくれたことだ。


 詩穂は瞬間、思わず、驚いてシャックリが出てしまった。


「いいんだよね?」

 と笑顔で聞いてくる慶に真っ赤になりながらコクンと頷いた。


 出逢って三年目。


 二人は正式に友人から恋人同士になったのだった。

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