第21話 討伐の途中で

討伐に向かう途中の出来事である。


「おい、嬢ちゃん? 一緒に遊ぼうぜ、な?」


と言っているのは顔を真っ赤にしている中年の男ーー どうやら呑んだくれらしい。


「お客様…無理ですよ、私、仕事がありますし」


呑んだくれに迫られ、黒いメイド服を着た少女は戸惑っていた。少女は紫の髪に白いフリルをつけて、慎ましい胸の小柄な女だった。

そのメイド服はといえばこんな田舎くさい街には不釣り合いなほどに、整然としていて垢抜けたメイド服を着ていて、ここではなく、どこかの貴族公爵に紅茶を出している方がよっぽどだ。

やはり側から見ていると不快に思ってしまう。

憤怒の魔女はイライラしていた。

基本、魔女は人目を避けたい。

そのため裏道を通ろうとすれば、案の定このような目に余るものを見てしまう。

この世は住みにくいものだと今更ながらに悟ってしまう。

憤怒の魔女は苛立つ気持ちを抑えて、道を戻ろうと踵を返したその時、


「助けてください、お姐様!! あの人ひつこいんですぅ!! 」


まさかのこちらに寄ってきては、憤怒にまるで本当に実姉に甘えるかのように抱きついてきた。


(このオンナ!! )


「ああ、お姉様? なんだ? へえ、姉ちゃんがいんのか嬢ちゃん? なかなか凛々しい顔立ちしたべっぴんさんじゃねえか、お姉さんも俺と遊ばねえか? 」


とか言ってあろうことか呑んだくれは憤怒をこの女の実の姉だと勘違いしている。

中年の男はこちらに近づけてくるとその黄ばん歯を近づける。

金髪はフケにまみれ、臭いはゲロ以下。

見るも嗅ぐもすべてが私を不快にする。

(来るな来るな!!)

内心そう叫んでおり、内側にいる化け物が唸っている。


「姉ちゃん! 黙ってねえでなんか喋れよ!」


中年の男はそう言って憤怒の右腕をバチっと叩くのと同時に、憤怒の沸点が振り切れ、憤怒の中の化け物が外に勢いよく飛び出し、


「ぐっが?! 」


呑んだくれの油ギトギトの首を右手で掴んでいた。

浮き出た右腕の血管に、憤怒の眉間にはシワが刻まれる。


「私に触るんじゃない、下水道のうじ虫以下の存在が。いいか? あなたみたいな下郎がそもそも人に触るな、全身をくまなく洗え、歯を磨け、清潔というもの知らないのか? そんな見た目じゃ女も男も寄り付いてくるわけがないだろうが。

それが出来なきゃ幼虫のように永遠に地面の中で寝てろ。そうすれば誰も不快な目に会わないで済むんですから。 返事は? 」


と言うと、呑んだくれは助けを請うように、無様に首を縦にふる。

憤怒は黙って右手を離すと呑んだくれは顔を青ざめながら必死に逃げていった。

憤怒はひと段落ついて、やっと面倒ごとが終わったと安堵した。

さて、


「この度はどうもありがとうございました!

是非ともお礼をさせてください」


この女をどうしようか?

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