第19話 動く絵画

すべてが終わった。

とりあえずこの世で最も残虐でもって古風なハンバーグ(タルタルステーキ)が出来上がったところで、憤怒は適当な瓶に入っている薬を一滴だけ飲むと、血に染まり果てたテーブルに腰掛け、軽く息を吐いていた。


「それだけでよろしいので? 」


悪趣味にもこの一部始終を見ていた小悪魔が

お嬢様のご機嫌を伺うように言う。


「ええ、白魔術の一つでしてね、私の記憶を媒介にして、一口だけでこの瓶一つと同じくらいの癒しが得られるんですよって、いつどこから入ってきたんですか? 変態悪魔 」


「あれま、これは、まだご機嫌斜めですか?」


「少し、良くなりましたけどね 」


「しかしまあ、随分と荒らしましたね 」


血と肉に汚れたテーブルやお菓子の壁を見て、小悪魔は淡々と言った。


「小悪魔」


「なんです? 」


「私はここを出ます」


「どちらへ行かれるのですか? 」


「傲慢と、嫉妬の元へ」


「どちらもですか? 」


「ええ、この件の借りを返してあげるのと元々、どちらも気に入らなかったので、この際、ひき肉してやろうかと。まあ、その前にとりあえずこれを片付けないといけませんね」


これとは、そこらへんに散らばる7体の小柄な死体のことを指している。


「良かったら、私が頂きましょうか? 」


頂くというのはここでは性的な意味ではなく、ただ単に腹の中に入れるというものだ。


「ええ、いいですよ 」


彼女は否応なしに平然と答えた。この発言の意味を憤怒はわかっているのだろうか。


(そうか…そういうことだったんですね )


小悪魔は魔女が彼らにどのような感情を抱いているのかを知った。

突然だが、思い出してほしい。

魔女が子供達と戯れている時、魔女は心の中でなんと思ったか、皆さんは覚えているだろうか?

そう、美しい、だ。

ここで彼女の、子供たちへの感情が私たちと少しずれていると認識してほしい。私たちは子供という対象に愛情やぬくもりといったそばに居てあげたい可愛さを感じるが、魔女は違い、彼女は彼らに対して愛情やぬくもりというよりは絵画や彫刻像を見るような感情で彼らを見ていたのだ。

そして、彼女にとって彼らとは『純粋で素直で見てたらこっちまで笑ってしまいそうな笑顔』をしているものであり、血にまみれて転がっている死体ではない。

もしも、火事で焼けに焼けた美の片鱗も残っていない額縁の入った羊皮紙を、果たして絵画とは呼べるだろうか?

つまり、彼女にとって彼らは、ただ単なる食事が必要な動く絵画だったのだ。

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