第16話 大切な人

「ギャハハっ!楽しいなあ! 楽しいなあ! 人を切り刻むって本当に楽しいなあ! 」

憤怒の全身は傷だらけの血まみれ。 顔にも傷があり、傷一つ一つから血が流れ、血が固まっているものもあった。

生きているのが不思議なくらいだ。

「でもなー、こう、面白みがないよねー、もっとさーギャーギャー喚くだったり、泣き叫ぶだったりしたらどうなの?」

「いた…い、痛い…で…す 」

憤怒は痛そうに腕を抑えて憤怒らしくないと彼女自身でも思う。意地をはるでも侮辱するでもなくただ率直に感想を述べただけだった。

「ふぐっ、ギャハハ! ギャハハ! そうそう、それ! やれば出来るじゃん! 」

何かは腹を抱えて笑った。

「本当に…痛いもんですね」

感傷に浸っていた。

七人の子供失った失望と七人の子供を殺された憎悪だとどうやら失望の方が大きかったようだ。

この感覚は久しぶりだと思った。

「? 」

奴はきょとんとした顔をする。

「私は体質のせいか、こういう痛みには自然と慣れていたと思ったのですが、やはり痛いものなんですね 。

切られた部分が焼けるように痛くて熱くて、悶え苦しむような痛みが、全身を弄るこの感覚」

傷をつけられてとても痛いのだ。それはもう発狂してもいいくらい。それなのに何故だろうか、こんなにも心が満たされるのは。あの大人たちに傷つけられたら、激痛で憤慨するはずなのに、今はそんなに悪い気がしないのだ。この気持ちは彼らのことを思えば思うほど強くなっていく気がするのだ。

「なんかなー、 君、なんか憤怒らしくないなー、もっとこう怒るだとか憤慨するだとかしてんくな ーー 」

「ええ、怒ってますよ。さっきからずっと」

魔女は真剣な眼差しで奴を見ていた。

奴の肩がビクッと震えたのは彼女の目の奥に燃え盛る冷ややかな業火のようなものを感じたからに他ならない。

「言ったでしょう? 『あなたはもう私の逆鱗に触れています』と 」

「これは私の怠慢が引き起こした罪です。そして、この傷は償いであり、罰なんですよ」

憤怒は傷を押さえていた手に自然と力が入る。

「ですが… あなたが罰も何も受けないのはおかしな話でしょう? 」

悲しそうでありながらも少し喜びを抱いていた顔が獣の笑顔へと移り変わる。

「何が罰だよ、君の体はボロボロ、しかも、相手は君の大切していた子の一人だよ? 傷つけられるわけないよね? ねぇ?ねええ? 」

奴は後退りをしながらも彼女を罵ったが、その声の中に嘲笑はなく、負け犬の遠吠えに近かった。

「大切な人? 」

気づいた、いや、思い出したと言うべきだろうか。

彼らがどんな子かを、彼女自身が彼らの何を愛し、何を望んだのか。

「ふざけるな! あの子たちはそんな顔をしないんですよ、もっとこう、純粋で素直で見てたらこっちまで釣られて微笑んでしまうようなそんな笑顔なんですよ」

憤怒の虚ろな目が奴を見る。

「あなたみたいに歪んだ笑いなんてしないんですよぉ! 」

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