第14話 クッキーの味
「なぜ、あなたがそんな姿をしているんですか? 」
一つの疑問が湧いた。
なぜ、こいつはモノの姿をしているのか。
先程も述べたとおりこの家の周りには結界が張られているため、この家にはたどり着くことは出来ない。奴が子供である可能性があるが、それでは奴がモノの姿をしていることの説明ができない。
「ねえ、これ見てよっ! これ、なんだかわかる? 」
「これは…クッキー? 」
そう、クッキー。丸く型取られ、整然と並ぶ甘いお菓子は今や赤黒く染められている。
「そう、クッキー! 美味しそうだよねー」
「材料を買いに外へ… 」
クッキーの材料なんてものはこの家にはなかったはず、となると自分で買いに行かなくてはならない。
「そう、しかも一人でね、馬鹿だよねー!そのせいで僕に殺されちゃうだから 」
なぜ? と彼女が心の中で思ったのはモノが一人で外に出たことではない。
なぜ彼らは憤怒の魔女にクッキーに作ろうなどと考えたことだ。
憤怒は最初から最後まで彼らに怒っていたわけではない。確かに最初はついカッとなってしまったが、子供は好奇心旺盛な生き物、あのような質問が出るのは当たり前なのだ。そんなことに怒りを覚えてしまった自分が悪いはずなのにーー
なぜ、そんな余計なことを?
「そのあとは僕が軟膏の中にこの子の血を入れて、それを身体中に塗って、詠唱を三回ぐらい唱えれば変身完了ってわけだね! 」
彼女はただ唖然としていた。
彼らのことだけで頭がいっぱいで、当然、奴の言葉など入ってこない。
「いやー、今思い出しても面白かったよ! 顔を歪めながら ーーってちょっと」
魔女は目の前にいる少女の皮を被った何かを無視して、テーブル上に丁寧に置かれた赤黒い苺のジャムがかけられているクッキーを一口かじった。
味ははっきり言って美味しいとは言い難く、たぶん塩と砂糖を入れ間違えたのだろう。
しょっぱかった。
それでも、全て食べた。
その綺麗に置かれたクッキーを、一つ一つ丁重に、片手にとっては、口に入れながら。
その徹頭徹尾、「おえー、食べるのそれ? 汚いなー 」と脇で奴はギャーギャー喚いていたが、魔女にとってはそれが風景の一つとしか思っていなかった。
食べ終わると独りでに、無言でたたずむ魔女がいた。
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