第13話 人質

「お姉ちゃん、助けて…」

目の前に、顔を血と涙で汚しているモノがそこに立っていたが、その時に思い浮かんだのは

「私をあまり怒らせないでください」

怒りだった。

歯を食いしばり、目を見開いて、目の前のを睨む。

「テヘッ、やっぱりバレちゃった 」

そう言った瞬間に、嘘みたいに奴の涙がピシャリと止まり、現れるはあざとい笑顔。

「お初にお目にかかるよ、憤怒ちゃん 」

その何かはあざとくも礼儀正しくお辞儀をする。

「あなたは誰ですか? 」

「名乗る必要あるのかな? これから殺される相手に 」

「私を憤怒の魔女と知って、言ってるんですね? 」

「うん、そうだよ、だって憤怒ちゃんって小物しか殺さないじゃん 」

「小物しかを殺さないのではなく、大物を殺す必要が無いんですよ」

憤怒は間髪入れずに答えた。

そもそも魔女と魔女が争うことは珍しいわけではないが、それでも同格同士の喧嘩は避けるもの。

なぜなら、魔女同士の争いは力量が互角である場合、お互いただでは済まない。必ず身体のどこかが消え去っていることを覚悟するべきだ。

「わかりました、そこまでいうのでしたら、あなたに私の恐怖をたっぷりと教えてあげましょう。 あなたはもう私の逆鱗に触れています。逃げられるとでも思わないでくださいね。 たとえ逃げたとしてもどこまでも ーー」

怒りは狂気へと移り変わる。

歯を食いしばった口元が獣の笑いへと変わっていくのは彼女が最近、獲物を見つけることが出来なくて、欲求不満だったからかもしれない。

「ねえ、あのさ、最後に僕が殺した子の台詞言ったあげよっか? 」

しかし、憤怒の魔女の台詞は言い終わることはなかった。

「『助けて…たす、けて、お姉ちゃん…』だってさ!ギャハハハハっ!! 」

奴のあざといだけの笑顔が狂気へと移り変わった瞬間だった。

刹那、魔女は懐から出したダガーで奴の首を斬りつけようとした ーー

「切れないよね? 切れるわけないよね? 自分が大切していた人なんだからさ 」

魔女は奴の首に差し掛かる直前でダガーを止めてしまった。

奴は憎たらしくも、避けもせず憤怒が切れないことを鼻からわかっているかのように堂々と立っている。

憤怒は舌打ちをする。

これではまるで人質を取られているようではないか。

憤怒は後ろに下がって自分を落ち着かせた。

「なぜ、あなたがそんな姿をしているんですか? 」

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