第9話 色欲の晩餐?

「はあ…はあ」

シスター服を着ている、豊満な胸を持つ女性は、構えても警戒の意味にすらならないちっぽけな刃物を握りながら細かく息を切らしていた。どうやら魔女から逃げ惑っていることはその息切れから悟れるだろう。

「誰を探してるの? 」

不意に彼女の後ろから声がかけられ、女性は振り返った。

振り返るとそこには女性の味方であった礼服を着た青年がふらつくように立っていたが、青年がもうすでに敵の手中であることは彼の口調から察することができる。

どうやら彼女も気づいているらしく、顔を歪めながらも、まだあきらめきれないような思わせぶりな表情を浮かばせていた。

「ああ、もしかして探してたの私? エヘヘ、大丈夫私ならここにいるよ」

怪物はこちらに近づいてくる。

「う…動かないで! 」

彼女は懸命に刃向かうように刃物を突き出す。

そんな姿が、バジリスクに刃向かう子鹿のように見えて、何か可愛く見えてくる。

「エヘヘ、そう、怖がらないでそれよりもいいことしようよー、きっと楽しいよう、エヘヘ」

怪物は女性が刃物を突き出すと同時に、流れるように女性の懐に入り、片手で頬を撫でた。女性は何もすることが出来ず、無様に固まる。

「あ、そうだ、私の名前教えてあげるね? 」

怪物はそう言って「私の名前は●●●● 」と彼女の耳に囁いた。

バンッ!

その瞬間、怪物の真ん中に銃弾が突き刺さり、怪物はシスター服の女性にハグするように倒れた。

「大丈夫か?!」

どうやら一人の礼服の男が助けに来たらしい。

「ああ…痛いなあ…」

そう言ったあと魔女はシスター服の女性に接吻をした。

「!?」

シスター服の女性の、塞がれた断末魔の叫びが聞こえてくる。

「きさまああああああああああっ!!!」

そう言うと礼服の男は帯剣を抜いて怪物の頭をぶった斬り、金髪頭の首が地面へと転がる。

女性の塞がれていた断末魔の叫びが解き放たれる。

顔面蒼白、脚は子鹿のように震え、目は虚ろになっていた。

「おい! しっかりしろ!! 」

一人の礼服の男が豊満な胸を持つシスターの背中を触れながら懸命に声をかけると、シスターから出ていた冷や汗のようなものがぴしゃりとやみ、急に震えが止まると、

「大丈夫です! 」

と言って立ち上がり先ほどの様子がまるで嘘だったかのように元気な声で言った。

「おう、そ、そうか、ならよかった」

一人の礼服の男はそう言って後ろを向いて、もう一人の魔女を警戒していたが、そのシスターの顔が妙な笑顔を浮かべていたことに礼服の男は気づいてはいないようだ。

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