第10話 聖腕
「ウーン、実に美味でシタ」
シミの付いた黒いローブを纏った暴食は赤黒く染まった手で膨らんだお腹をさすっていた。
「あー、良かったー、エヘヘ」
シスターの格好をした女性の色欲は猫背になって顔を赤面させていた。
「お前ら、何帰ろうとしてんだっ! 」
強欲は暴食と色欲が二人並んで帰ろうとした時、後ろから呼びかけた。
「用は済みましタシ 」
「私もー」
「だめだっ! 帰るんじゃねえっ! お前らマジで、この会議をパーティーと勘違いしてえねえか?! 」
暴食と色欲を帰しまいと両方の襟首を掴んで引っ張っていた。
それを見ていた憤怒が傲慢に聞くことを少し躊躇って、
「いつも、こんな感じですか? 」
と憤怒は無愛想に傲慢に聞いた。
「ええ、そうですのよ、おかげでまともに会議なんて出来っこありませんの 」
傲慢が言うと憤怒はふん、そうですかと抑揚のない返事を返してやったが傲慢はというと笑顔で平然としていた。
「それでは私は帰らせてもらいますよ 」
「もう帰ってしまわれるのですか? 」
「ええ、元からここに用は有りませんし」
そう、別にここに用はなく、憤怒の目的はあくまで強欲の報酬であり、会議とやらには用はない。
それに彼らのことが気がかりでならない。
「何ですか? その笑いは」
憤怒は怪訝に思い、傲慢を睨む。
「いいえ、別に、何も、御機嫌よう」
傲慢はその笑顔のまま、上品に手を振った。
その上品さがまた苛立ってくる ーー 殺されたいのか?
憤怒は舌打ちをして、前を向いて歩いた。
「おい、待てっ!あーくそ、逃げられた!」
強欲の方はどうやら二人を逃したらしい。
二人はもう森の中。
強欲は地団駄を踏んでいた。
「強欲 」
「なんだ?! 話なら後にしろっ!! 」
「なんだおい、その手は」
「契約金」
「お前も帰る気かよっ! あーもう、今日はいーや、また今度にしよう、ほらよ、持ってけっ! 」
そう強欲は言うと、大きく膨れた巾着袋を投げられ、憤怒は両手で受け取った。
「あと、馬車をお借りしてもいいですか? 」
「ああ? いいよ、持ってけ、この野郎っ! 」
憤怒は歩いて教会のそばにあった馬車に乗ろうとすると、
「あ、そうだ、一応言っておくが、聖腕には気をつけろよ 」
「? 」
強欲がそう言うと憤怒は怪訝に思う。
聖腕というのが聖遺物の一種であることは知っていたがそれが自分と、どのような因果関係があるかは全くわからなかった。
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