第6話 過去の記憶
別に私は、人を救いたくて魔女になったわけではない。
理由は本来真逆のもの。
憎悪だ。
自分の持つ性(さが)を恨んでは、目の前にあった他人の幸せをぶち壊した。
街で幸せそうな同年代の少年や少女の顔を見るたびに自分の中にある衝動が現れ、目の前の幸福を切り刻み殺した。
その僥倖な顔が絶望に歪んだときはまさに滑稽。面白すぎて笑っちゃうくらいだ。
そんなことを繰り返していたある日。
目の前にいる年下の少女が大の大人に殴られていたのを見た。
私は初めてそれを見たが、かつあげなんてこの世のご時世、ないわけがないだろうと分かりきっていた。
だから、特に何も思わなかったはずなのに、私は…
その男を切り刻み殺した。
私は見捨てなかった。見捨てられなかった。
自分でも驚きだったのだ、こんなことで自分が怒り狂うなど。怒る狂うよりもむしろ嘲笑ってた方が自然だと自分でも思う。
助けられた少女は私に怯えていた。
青く腫れた脚は震え、絶望に満ちた顔は涙でぐっしょりだった。
彼女に「大丈夫? 怖くないよ」なんていうつもりはなかった。私は『たまたま』目の前に気に入らないものがあったからぐちゃぐちゃにしただけで、『たまたま』彼女が私の感に触れるようなことをしていなくて、『たまたま』彼女と私の敵が被っただけで、私は感謝されるような義理はこれっぽっちもない。
そう思い彼女を通り過ぎようとした時、彼女にローブを端っこを掴まれた。
鬱陶しい、勘違いするなと思い、なぎ払おうとした。
「あ…ありがとう」
彼女は今、激痛に苛まれているはずだ。
そして、自分を殴っていた大人を粉微塵にした私に恐怖しているはずだ。
それなのに彼女は激痛と恐怖を押し殺したかのように、私に満遍の笑顔を見せた。
その表情を、私は今でも鮮明に覚えている。
その頃かもしれない、私がこんなことを始めたのは。
数々の憎い大人たちを殺してきた。
あるときは身体の優位を使ってかつあげをする野郎どもに。
あるときは親の権力を使って子供に強制労働をさせ、暴力を振るう野郎に。
そんな風にして、今の彼らが集まった。
人を救うことになんら嫌な気持ちなど湧いてこなかった。むしろ清々しいぐらい。
そうして、またあんな美しい笑顔が見られたらいいなと、彼らに誇れる自分になろうとした結果が今の私だ。
森を抜けると、強欲が太陽の下で平然と待っていたのが見えた。
「よお、憤怒! 準備はいいか? 」
片手を上げ、そう言った。
「ええ、いいですよ」
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