第3話 小悪魔
あと、もう一つの理由は、自分はあくまで魔女であり、彼らは人間ということを他でもない彼らに認識させるためだ。
黒髪の女性はあえて彼らとの壁を作ったのだ。
それは黒髪の女性の戒めであり、彼らに私は人間ではない別の存在であることを示す警告でもあった。
もし、黒髪の女性が彼ら全員の名前を知ることが出来たなら、彼らを隷属化という名の下に自分の奴隷にすることも出来ただろう。
しかし、そんなことを黒髪の女性が望んだわけではなく、黒髪の女性は彼らの、あの無邪気で素直な笑顔に心打たれ、惹かれたのだ。
だからこそ、黒髪の女性は彼らとの壁を作った。
(私はなんてことを…はあ…)
黒髪の女性はため息を吐きつつも、事あるごとにそのことを思い出し、憤慨していた。
無論、自分に対してである。
憤慨するごとに体の中にある溜まった怒りの感情を、適当な木に横払いの拳をぶつけ(なお、拳をぶつけた木は倒れはしなかったが拳の手形ができていた)鬱憤を晴らし、その行為にまた苛立ちを覚え憤慨した。
「どうされたんですか? 黒髪の魔女よ 」
前方の木、その頭上から声が聞こえた。
その声の音源は木枝にぶら下がっている。
それは今すぐにでもぶん殴りたくなる、人を小馬鹿にした腹立たしい声とピエロような顔をしている少年が彼女の前に姿を現した。
「何ですか? 変態小悪魔さん 」
彼はあの家の持ち主であった魔女との契約者であった悪魔であり、彼女とは契約は結んでいない。
彼女にとっては視界に入るのすら拒む。
小悪魔はぶら下がっていた木から降りると、
「あなたが悲しんでいらっしゃるようでしたので、この私めが誠意を込めて慰めてあげようかと 」
と礼をしながら言った。
「黙れ、変態」
彼女は街に落ちている野糞を見るようにその小悪魔を見た。
「おや、汚い言葉ですね、私はあなたにそのような言葉遣いは教えていませんよ? 」
「いいからその汚い口を締めなさい。あなたのいう通り、私は今とても機嫌が悪い 」
彼女は彼らに怒りを表したときと同じ、冷徹で尖った言い方をし、そのことでまた同じことを考えてしまい切歯扼腕する。
彼女はこういう奴らとの会話は基本こんな感じなのだが、目の前にいる奴の背が低いため、どうにも子供に見えてしまい、彼らと混同してしまうのだ。
「おやおや、これはおっかない」
ニヤリと笑いながら言うと、
「では、慰めて欲しくなったらいつでも言ってください。 全力で応対しますよ、またいつものように」
「結構です、あと、あなたと一度も交わりの儀式など行ったことなどありませんし、必要もありませんよ 」
交わりの儀式とは魔力を供給をするための儀式だ。
説明はしないでおく、内心にいやらしいことを考えている人間なら『交わり』という言葉だけでだいたい見当がつく。
「そうですかそれは残念、それではまた明日お会いしましょう、ご機嫌よう」
小悪魔は木の影に消えていった。
「来ないでください、ほんとに」
と言ったあと、ため息をついて歩み、二、三歩進んだところで、
「あと、そうでした 」
ひょいと木陰から姿を現す。
「なんですか? 来ないでくださいと言ったでしょう? 」
「手紙入れ付近に、来客がお見えになっています、くれぐれも手荒な真似をなさることのないように」
小悪魔はいうとまた、影の中に消えていった。
「? 」
彼女は少し考えようと立ち尽くし、唸りもせず黙って考えていたが、見当がありすぎて結局答えは出てこなかった。
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