愛のカタチ

紫 モチめ

最期の夜

「夢……じゃないよな?」

俺はベットの上に座り、天井を見上げながら自分の頬をつねる。

今日、俺はついにミジンコ1匹分の勇気を振り絞って幼馴染の姉である美琴さんに告白して、6年間に及ぶ片思いに終止符を打ったのだ!!

美琴さんは俺の2つ上で、白百合の如く美しい人だ。

もちろん、顔面偏差値ルックスが中の中の俺が釣り合うわけも無く、

正真正銘、高嶺叶わぬ

OKなんて、貰えるはずも無いと思っていたのに……。

ーーーーーーーーーーーーーー


「み、美琴さん!」

「…京也くん?この手紙京也くんだったの?」

体育館裏へ手紙で呼び出し。

ありきたりというか、手段が古いというか……。

とにかく、何とか美琴さんと2人っきりになりたくて選んだ手段が上手くいった。

美琴さんはキョトンとして俺を見つめる。


「え、えっと、俺と…!」

落ち着け、一言だ。この一言をいうだけで良いんだ。

俺は何度か深呼吸を繰り返し、美琴さんに握手を求める形で頭を下げ、

「俺と付き合って下さい!」

口から出た言葉。もう取り消しは効かない。

心臓がうるさい。口から飛び出しそうだ…。

「…えっと、こちらこそよろしくお願いします。」

美琴さんはおずおずと俺の手を握った。


ーーーーーーーーーーーーーー

「……つまり、俺も、ついにリア充昇格!?」

ガッツポーズをして、そのまま仰向けにベットに倒れる。

「……はぁ、会いたい。って、ついさっきまで一緒にいたのに……。」

「お兄ちゃーん?」

「うわっ!?」

ーガッ!ー

音もなく部屋に入ってきていた京花が不意に顔を覗き込んできた。

思わず起き上がろうとして京花の頭部で頭を強打する。

「イッタァ…!」

「ッ〜!!」

「い、妹よ。あれほど音を消して近づくなと言っただろ………。」

「ご、ごめんなさい………。」

しばらく2人して頭を抑えてうずくまっていた。

ーーーーーーーーーーーーーー

「あー、痛かったぁ。」

「これにこりて音を消さないようにしろよ?」

「はぁい。」

「…………。」

「……………………。」

「あっ!そうだ!聞いてくれ!!いm((「ヤダ聞かない。」

「え?」

京花は被せ気味に言うと、顔からは表情が消えていた。

「聞きたくないよ。お兄ちゃんと美琴さんが付き合いだしたなんて……。」

「え、何で知って………?」

「そんな事より!私ね、お兄ちゃんに渡したいものがあるの!」

そう言って京花はガサガサと小脇に抱えていた大きな包みを開き出す。

ー♪♪♪ー

不意に俺の携帯から着信音が流れた。

「……。」

「出たら?綾音姉ちゃんからかもよ。」

京花は顔を上げずに促してくる。

「………。」

何かおかしい。そう思いながら電話に出る。

「もしもし?」

『京也!?どうしよう!!』

「綾音?どうした?」

『お姉ちゃんがまだ帰って来ないの!!』

「え?だって……」

おかしい。

だって、美琴さんの事は家まで送ったはず……。

『それに、さっきお姉ちゃんから助けてって電話が来て……!!』

「さっきっていつだ?」

『ほんの5分くらい前だよ!何回かけ直しても繋がらなくてっ……!!』

「そんな……!警察には言ったのか!?」

『行ったよ!!でも、どうせ家出だろって……!相手にしてくれなくて……!』

「そんな……。」

『とにかく!何か知らない!?様子がおかしかったとか、そういう………』

不意に綾音の声が遠ざかる。

否、京花が俺の手から携帯を取り上げたのだ。

京花は何事か叫んでいる綾音を無視して通話を切った。

「美琴さん、まだ帰ってないんだ……。心配だね?」

「京…花……?」

京花はいつもと変わらない笑顔で俺に話しかける。

「お兄ちゃんへのプレゼント、喜んでくれるといいんだけどなぁ…。」

そう言って京花は俺の眼前にナ二力・・・を差し出した。

「え、あ……み、こと…さ、ん?」

ーゴトッー

京花は笑顔のままナニカー美琴さんの頭ーを床に落とす。

鈍い音を立てて落ちたソレは力なく転がる。

「美琴さんの事は私も好きだったよ?でも、私からお兄ちゃんを盗ろうとするんだもの。許せないよ。」

京花はニコニコとしまま美琴さんの頭に足を乗せる。

恋人美琴さんが目の前でぐちゃぐちゃの肉片ゴミクズになるのを見たお兄ちゃんの反応が見たいのが半分。最期に死に顔を見せてあげたかったって言うのが残りの半分。だって、会いたかったんでしょ?美琴さんに。」

京花は今まで見た事も無いような満面の笑みを浮かべて美琴さんの上に乗せている足に力を込めた。

ーミシッ…メキッ……ギシッ…ー

「あれ、おかしいなぁ、潰しやすいように砕いたはずなんだけどなぁ……。」

ーギッ…グシャッ、クチャッ……ベシャッー

「アハッ、やっと潰れた!……あれ?」

肉の潰れる音。頭蓋骨の碎けた雑音。脳が床にこぼれ落ち、血肉が飛び散る。

「お兄ちゃん?ねぇ………?もしかして、怒ってる?」

京花がすがりつくようにして声をかけてくる。

俺はただ無言で床に散らばる血肉を見つめた。

「お兄ちゃん?お兄ちゃんってば!ねぇ、ねぇって!!何か言ってよ!!」

泣きそうな顔で俺の肩をゆする。

「…………。」

「お兄ちゃん……っ!お願いだから何か言ってよ!!ねぇ………!?」

「…………。」

「……てよ……。ねぇ!私の事を見てよ!!」

そう叫ぶと京花は血溜まりの中に泣き崩れた。

「………………。」

あぁ、こういう事だったのか。コレが……。

「京花。」

「…!お兄……ちゃ、ん…?」

パッと嬉しそうに顔を上げた京花の顔が困惑に歪む。

「あ、っう……。」

京花は苦しそうに何度か喘いだ後、血溜まりの中に前のめりに倒れた。

「…………。」

俺は無言のまま京花に差し出しハサミを抜き、握り直すとふたたび振り下ろした。

刺す度に京花の体が跳ねる。血が辺りに飛び散り、肉を刺す感触が手に伝わる。

生暖かいモノにまみれながら俺は笑った。

「ハッ、ハハハッ!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

そしてそのまま、足下に散らかる京花だったモノと美琴さんだったモノが混ざった血肉を手に取り、おもむろに口に運ぶ。

ーグチャッ、グチ……ビチャッ…ー

無音の室内に咀嚼音そしゃくおんだけがこだまする。

俺はゆっくりと口の中に溜まったモノを飲み下した。

「………これでずっと一緒だよ、京花…、美琴さん……。」


…ー俺はこの時初めて、“本当の愛のカタチ”を知ったー…

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愛のカタチ 紫 モチめ @siori_mochime

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