その日の木
滝野遊離
本文
闇が赤くなり、青くなり、一日はいつもと同じように始まる。
そしてまたすれ違った。彼の顔を見るのも何度目だろう。
自分の目の前には、常にゆっくりとした時が流れている。陽が登るとさっぱりとした香りが立ち込めて、しばらくすると気のない人間が歩き始める。みんな似たり寄ったりの格好をして、コスチュームに自我を閉じ込めている。個をなぜあんなにも抑制するのだろうか。人は人らしく生きるのが人が守っている常識ってやつではないのか。普通の人間は不思議だ。何もわからない。
ざばりと波が押し寄せ、太陽が登るにつれて引いていく。今度はほがらかな空気がよってきて、年齢層も低くなる。
そう、自分は街をただ眺めている。働かなくていいのか、こんな生活でいいのか、なんて毎日思っている。でも、だって。動けないんだもの。
こどもが、ぼくにゆびを向けて。「木だ」
その日の木 滝野遊離 @twin_tailgod
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