第33話 入院

霧山村から地元に帰り、もう、僕はダメになっていた。

新聞記者に追い込まれた事もあったが、今までの事が蘇る。


呑みに言っては弾け、次の日は号泣する日々が続いた。


そのうち、

白血病でいつ死ぬか分からない。

もう、いろいろやって来たので、そろそろ、終わりにしてもいいんじゃないか。

終わりは自分で決めてもいいんじゃないか。

と思う様になり、死を願う様になった。


精神科の先生に電話すると、「なんとかして出て来れないか。病院で待ってるから」涙が出た。

その頃は、外に出れなく人ゴミも耐えられなかったので、タクシーで行く。


先生に「死にたいんです」と伝えると「入院してみないか」と言われる。

僕は、どうでも良かった。「隔離病棟なら喫煙室もあるので、そこにしよう」と言われた。(今考えるとそれだけの理由では無かった様な気がする)


そして、大きな病院の精神科に入院。そこには、解放病棟と隔離病棟のふたつがあり、隔離病棟は、鍵がかけられ、病棟の外へは担当医の許可がないと出れない。隔離病棟の奥には重度の患者の個室がいくつかあり、夜中になると奇声が聞こえた。


隔離病棟では、携帯電話もiPodも使えない。ケータイは、被害妄想の人がいて、写真を撮られているんじゃないかと妄想するらしい。


一週間は、何もかもにムカついた。看護師の対応だけでキレていた。

看護師長を呼び出し、恫喝した。


一週間が、過ぎた頃、カウンセリングと薬が効いたのか、落ち着いてきた。

この社会から隔離されている状況が心地よかった。

僕は、若い研修医に話を聞いてもらうのが嬉しかった。

若いが、ちゃんと話を聞いてくれ、ちゃんと答えを出してくれる。教科書どおりなのかもしれないが、それが、安心できた。

その研修医には、「夕方来てくれ」と指名する。

会議などで、研修医が来れない時は寂しかった。


僕は「音楽が聴きたい」と担当医に伝え、二週間経った頃、iPodを返してくれる。

僕は、邦楽は、外し、洋楽だけにしていた。邦楽は、歌詞を聞き取ってしまい落ち込む。幸いなことに僕は英語が分からないので、洋楽はリズムだけで聞き流せる。毎日、喫煙室で音楽を聴き、外を見ながら、タバコを吸っていた。


他の患者からは、「いつも、そんなんじゃいけないよ」と言われたが、三週間後には、病棟の外でのケータイの使用を認められる。しかし、「見えるところに居てくれ」と言われる。昔、非常階段で首を吊った人がいたらしい。


とりあえず、メールチェックと着信履歴の確認。

まだ、Facebookは見たくなかった。


入院してみると、僕は軽い方なんじゃないかと思うようになる。

僕が入院したのと同時くらいに救急車で運ばれて来た男性がいた。

両手両足を切って運ばれた様だ。拘束具で二週間ベッドに縛り付けられていた。

拘束具が外れるとTシャツと短パンで病室から出てきた。

僕は、「普通の人みたいだね」と言うと嬉しそうにしていた。

僕らは多くは語らないが、少しずつ話す様になる。

「僕も手首を切ろうと思ったことはあるよ」というと、彼は、「絶対、止めた方が良いですよ」と自分の自殺未遂を後悔しているようだった。


一ヶ月半が過ぎたころ、上の従兄弟からの着信履歴があった。

電話してみると「田舎で仕事があるので、来ないか?」と言われる。親父の田舎だ。僕は、仕事内容も聞かずにOKした。


その病院には、自主入院したものは、自主退院できるというルールがあった。

看護師たちは「勝手ことを言ってもらっては困る」と言っていたが、担当医は話を聞いてくれ、就職まで面倒みようと思ってくれていたようだが、「自分が落ち着ける場所に行けるなら、その方が良いね」と言ってくれた。


そして、僕は、退院して3日後、親父の田舎へ行く。

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