第25話 親父
製版会社に勤めだして一年。
ぼくは、通勤時間を削るため、会社から徒歩20分のところに部屋を借り、一人暮らしをしていた。
ある朝、出勤して、仕事の準備をしているとケータイが鳴る。親父からだ。珍しいな。こんな時間に。
ケータイに出ると警察だった。
親父が交通事故にあったらしい。
母はケータイを持たないので、着信履歴順に僕にかかって来た様だ。
ぼくは、すぐに会社を飛び出し、病院へ向かう。
母に電話し、親父の事故のことを知らせた。僕もテンパっていたので、落ち着いて考え、もう一度、電話する。「ガスの元栓を閉めて、戸締りを忘れずに、保健証もって焦らず来てね」
会社から、病院はタクシーで20分程だったので、僕が、いち早く付く。親父は普通にしている。目に見える怪我も殆どない。しかし、意識は無かった。
母が来たので、一度、会社に戻り、仕事を終わらせ、また病院へ。
親父は集中治療室に入っていた。母と一緒に面会できる様だ。
その時は衝撃だった。
顔が3倍くらいに腫れ、エレファントマンの様になっていた。
僕は声も出なかった。
母は兄貴に電話する「今日明日の話じゃないらしいから落ち着いた時期に来てね」なんて言っているので、僕が電話に変わり「今帰って来ないといつ帰って来るんだよ」と言うと「すぐに帰る」と言って新幹線で駆けつけてくれた。
僕は嫌な予感がしていた。
3日前、自宅に帰り、親父と呑んでいた時、親父に「俺が死んだらお母さんの事は頼むな」と言われたことを思い出す。いつも言っていたことだが、なんか引っかかっていた。
病院からは「今日明日の話じゃないので、今日は帰ってください」
と言われていたので、実家に母、兄、僕が揃い、早めに休むことにする。
早朝、4時電話が鳴り、叩き起こされる。
親父が急変したと。
急いでタクシーで病院へ向かうと、親父はもう死んでいた。
医師から、ココの脳の腫れを見逃していた。なんたらかんたら。説明があった。
見逃していた?文句を言いたかったが、何を言っても親父は生き返らないので、止めた。
親父は、24時間以内に亡くなったので、死亡事故扱いになり、警察の検死があった。
それが、終わって、会社に電話する。
係長は明後日には出てこい。と言う。
おいおい。
部長に電話すると5日後には出て来いという。
おいおい。
忌引休暇は、7日だ。
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